修繕積立金の運用について!5つの運用先と選び方
マンションの修繕積立金は9割のマンションで不足していると言われています。では、この修繕積立金の不足を補うためにできることは何があるのでしょうか?
一つは支出を減らすこと。
例えば当社では、管理会社の見直しによる管理費の削減を提案しています。この管理会社の見直しによって、年間の管理委託費の2割程度は削減できます。年間1000万の管理委託費を払っているのであれば、200万程度は削減できるということです。
削減できた管理費を修繕積立金に上乗せすることで、修繕会計が改善されます。もし年間200万削減できるのであれば、12年周期で行われる大規模修繕には2400万円分、修繕積立金に上乗せできることになります。
他には競争入札を用いて、修繕の工事費を下げるなどがあるでしょう。
修繕積立金の不足を補うためにできるもう一つは管理組合の収入を増やすことです。
今回はこの「収入を増やす」ための「修繕積立金の運用」について考えてみたいと思います。
マンションの修繕積立金の運用先
国交相が発行している「マンション総合調査にて」、修繕積立金の運用先と運用方法を知ることができます。
修繕積立金の運用先として、最も多いのは「銀行の普通預金」、「銀行の定期預金」、次いで多いのが、「銀行の決済性預金」、「マンションすまい・る債」、「積立型の保険」です。国債などはほとんど運用はされていません。
なお「マンションすまい・る債」とは、住宅金融支援機構が発行している債権の名称です。
それぞれの特徴とメリット
それぞれの金融商品のメリット・デメリットは何でしょうか。
銀行の普通預金
一般的な普通預金のメリットは換金性の高さです。しかし、普通預金の金利は0.0何%というレベルのため、0よりは良いのかもしれませんが、利回りという観点からみて魅力はありません。
普通預金はペイオフ(預金額の1000万円までが保証されない仕組み)対象のため、「修繕積立金はマンションの共有財産」と考えると、普通預金だけに預けておくのは、よい運用とは言えません。
小規模な修繕工事が賄えるだけの金額が普通預金にあればよいのではないでしょうか。
銀行の定期預金
定期預金のメリットは普通預金に比べて金利が高いことですが、換金性が低いのが問題です。大規模修繕工事は10年から15年サイクルで実施されます。大規模修繕工事のサイクルに合わせたが、災害などの問題があった際に、途中解約でお金を引き出すことになります。ただし、その場合、利回りが小さくなります。また定期預金もペイオフ対象です。
大規模修繕のために確実に貯めておく修繕積立金として活用するのがよいかと思います。
銀行の決済性預金
決済性預金は「普通預金」や「定期預金」とことなり、ペイオフの対象ではありません。つまり、1000万以上銀行に預けた場合でも、全額が保証される預金です。しかし利息はつきません。
ペイオフの対策が必要か否かは別の議論ですが、100戸を超えるマンションになってくると、年間の修繕積立金だけで1000万を上回ってきます。
決済性預金を活用されているのは2割の組合様ですが、修繕積立金が共有資産という性格を考えると、リターンはないが修繕積立金の預け先として非常によいと思います。
積立型マンション保険
どの組合もマンションの共有部には火災保険を掛けています。このマンションの火災保険には掛け捨て型と積立型が存在しています。後者は、火災保険の保証機能と積立型の機能を有しています。
マンション総合調査では、この積立型の火災保険を利用されている組合は全体の15%となっていますが、この積立型火災保険を導入されている組合は増えているのではないでしょうか?
ただし、保険はコストではなく、保証で考えるべきであり、入り口(支払い)よりも出口(保証)をしっかりと検討しなければなりません。
マンションすまい・る債
住宅金融支援機構(が、修繕積立金の計画的運用の為に発行する債券で、マンション債券の名称です。10年債券であり、10年間継続して積み立てる前提ですが、1年以上の積立があれば途中解約のペナルティはありません。また利回りも0.12%前後と定期預金よりも格段によいのも特徴です。
https://www.jhf.go.jp/loan/kanri/smile/index.html
リスクの側面についてですが、住宅金融支援機構の優先弁済対象の資産が、優先弁済債券の額を上回っており、安全性も高いと言えます。
預かりした積立金については、独立行政法人住宅金融支援機構法により機構の財産から優先的に弁済を受ける権利を有することとされています。
マンションすまい・る債は、国の認可を受けて住宅金融支援機構が発行する一般担保債券です。
マンションすまい・る債を保有されている方は、住宅金融支援機構の総資産から優先的に弁済を受ける権利があります。
平成30年度決算時点では、マンションすまい・る債を含む優先弁済の対象となる一般担保債券の発行残高は4兆7,017億円で、これらの弁済に充てられる資産額は機構の総資産(26兆455億円)のうち9兆4,860億円となっています。
なお、この「すまい・る債」が2019年度は募集口数150,000に対しての応募が94,978件と応募率が63.3%でしたが、2020年度は応募が86,684件、57.8%の結果となりました。
対前年比の応募口数で91.3%の結果となっていますが、住宅金融支援機構によると、この年は新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、4月から6月にかけてマンション管理組合の総会が延期となり、応募手続が滞ったこと等が考えられるとのことです。
環境の変化により2020年度の応募が2019年度比で落ち込んでしまったとはいえ、低金利下の時代の中でも修繕積立金の効果的な運用先と認知されているとも言えます。
また、住宅金融支援機構によると、2021年度募集分から「抽せん」制度を廃止し、応募受付期間中の応募については全て受け付けることを予定しています。管理組合の総会が適正に実施されることで環境が好転してくると、引き続き運用先として検討されることも考えられます。
すまい・る債の運用で特筆すべきポイント
すまい・る債のポイントは運用で資金増が期待できるだけではない点です。仮に修繕積立金が足らなかった場合に、同じく住宅金融支援機構から、マンション共用部分リフォーム融資として借入をすることも出来ます。その際に、すまい・る債の運用を行っていると、リフォーム融資における融資金利が低くなるというメリットも発生するのです。
修繕積立金をすまい・る債に回しながら、積立金元本とその運用益を足しても、万が一必要となる修繕積立金が足らない場合は、さらに金利メリットがある借入も可能となるのです。
修繕積立金の運用先の選びかた
修繕積立金で株を運用されるような組合はいないと思いますが、修繕積立金はマンションの劣化の対応資金であり安全に運用する必要があります。そのため、リスクが高いものを選ぶべきではありませんが、リターンがないところに預けておくのも、将来の修繕積立不足の解消に役立てることはできません。
最適な運用先は個々の組合の考えに依存しますが、当社としては、銀行に普通や定期として修繕積立金を預けておくよりは、小規模修繕で必要となる程度の一定額だけ決済性預金に預けておき、マンションすまい・る債や積立保険などで資産を運用をすべきではなかいと思います。
今対応をしている組合とそうでない組合では、将来の修繕金会計に大きな違いがでてしまうでしょう。