管理費高騰は避けられない時代へ― インフレ下で管理組合が取るべき現実的な備えと対策 ―

2026年を迎えた現在、私たちの生活を取り巻く経済環境は数年前とは大きく様変わりしました。長らく続いたデフレ経済は過去のものとなり、物価上昇、円安、そして人件費の高騰が常態化しています。この流れは、私たちが住むマンションの「管理」という分野にも、確実に影響を及ぼしています。
これまで「管理費は据え置きが当たり前」と考えてきた管理組合も多いでしょう。しかし、管理会社からの値上げ要請や工事費の上昇を前に、「どこかが努力すれば吸収できる」という前提は崩れつつあります。
今、管理組合に求められているのは、単にコストを削ることではありません。インフレという避けられない前提に立ち、限られた資金の中でどの管理水準を維持し、どこを見直すのかという、いわば「経営的な判断」です。本コラムでは、管理費高騰の背景を整理し、管理組合が直面する現実と、今後取るべき具体的な対策について解説します。
なぜ管理費の高騰は避けられないのか(背景整理)
管理組合の理事会で「管理会社から値上げを打診された」という報告があると、「管理会社の都合ではないか」と感じてしまうこともあるでしょう。しかし、現在のコスト上昇は、一企業の努力だけで吸収できる水準をすでに超えています。
具体的には、次のような要因が複合的に影響しています。
インフレ・円安が管理コストに与える影響
マンション管理には、想像以上に多くの「モノ」が関わっています。共用部の清掃資材、LED照明などの電気部材、エレベーターや給排水設備の保守に必要な交換部品など、その多くが原材料費の高騰や円安の影響を受けています。特に輸入比率の高い設備部品や、製造に多くのエネルギーを要する資材の価格上昇は顕著です。
そのため、これらに関連するコストが、企業努力を含めて管理会社がコントロールできる範囲を超え、社会全体の物価水準に連動して上昇しているのが実情です。
人件費上昇という構造的要因
物価以上に深刻なのが人件費の上昇です。マンション管理は、管理員、清掃員、フロント担当者、そして各種点検を担う技術者など、「人の手」によって成り立っています。最低賃金の引き上げに加え、労働人口の減少による人材不足が、採用コストや教育費を押し上げています。
人件費は一度上がると下げにくい性質を持っており、一定水準のサービスを維持するためには、適切な給与水準を確保せざるを得ないという構造的な課題があります。
管理費高騰時代に、管理組合が直面する現実
コストが上がる局面では、管理組合は多くの場合、「サービス水準を見直す」か「値上げを受け入れる」かという判断を迫られます。
「条件を変えず据え置き」に伴うリスク
委託内容や体制を変えないまま、管理費の据え置きを続けた場合、管理会社は採算を合わせるため、業務の進め方や人員配置を見直さざるを得なくなることがあります。1人当たりの売上向上のためにフロント担当者の担当棟数が増える、清掃や点検の頻度・精度が調整されるといった変化は、結果として管理の質に影響し、資産価値を損なうリスクにつながりかねません。
先送りが招く資金繰りの悪化
値上げの合意形成は、理事会にとって大きな負担です。しかし、判断を先送りすると、管理費や修繕積立金の余裕(剰余金)が徐々に失われ、資金繰りが厳しくなります。その結果、本来は修繕のために積み立てた資金について、運用や取り扱いを巡る議論が避けられなくなるような、苦しい局面に追い込まれる可能性もあります。
現状を直視し、適切なタイミングで判断することが、マンションの将来を左右します。
管理委託費等の値上げによる徴収費用の見直し
管理会社からの管理費やメンテナンス費用等の値上げをやむを得ず受け入れる場合、管理組合としては徴収する管理費や修繕積立金を値上げせざるを得ません。このような状況に陥った際には、理事は説明会や総会において、値上げ理由や今後の見通しについて説明を求められる場面が増え、結果として管理会社に対する意見や要望が集中しやすくなります。

今後、管理組合が考えるべき「方向性」
このような状況におかれた管理組合は、どのような考え方を持つ必要があるのでしょうか。次の3つの方向性が考えられます。
「安さ」ではなく「持続性」で考える
インフレ時代において重要なのは、「いかに安く抑えるか」ではなく、「その金額で良好な管理が続けられるか」という視点です。一時的な安さだけを重視すると、数年後に管理体制が立ち行かなくなるリスクもあります。中長期的に破綻しない管理を前提に、適正な水準を見極める必要があります。
管理サービスを“当たり前”として受け取らない
日常的な清掃やトラブル対応を当然と捉えるのではなく、その裏にどのようなコストがかかっているのかを理解する姿勢が重要です。管理委託費の中身を確認し、「何に、なぜ、いくら払っているのか」を役員だけでなく、組合員とも共有することが、納得感のある合意形成につながります。
管理組合が「判断主体」になる意識
「管理会社に任せておけば安心」という時代は終わりつつあります。これからは、管理組合がマンション経営の主体として判断を下し、管理会社をパートナーとして活用する姿勢が求められます。
そのため、役員だけでなく組合員一人ひとりが、管理組合の運営を自分事として捉える視点を持つことが重要になります。

管理組合が取れる具体的な対策
そして、これらを受けてどのような対策を講じていけばよいのか、具体的に紹介します。
ステップ1:コスト構造の可視化
まずは、管理委託契約書を精査し、各業務の内容と費用が現在の実態に合っているかを確認します。「前年踏襲」で続いている契約に、ミスマッチが生じていないかを点検することが、まずは出発点です。
ステップ2:管理委託内容の再設計
値上げを前提とする前に、業務の棚卸しを行います。管理員や清掃の勤務条件は、建物規模や居住実態に応じて再設計できる余地があります。勤務時間や頻度の見直し、機械化の導入など、複数の選択肢を組み合わせて、管理組合として許容可能な最適解を探ることが重要です。
ステップ3:管理会社の比較検討(リプレイスの検討)
現在の委託内容が、同規模・同条件のマンションと比べて割高、あるいは内容に見合っていないと感じる場合、管理会社の変更を検討することも現実的な選択肢です。複数社から提案を受けることで、自分たちのマンションにおける適正水準が見えてきます。

管理会社選定・見直しを進める際の注意点
もし、管理会社変更を検討するのであれば、以下のポイントを十分抑える必要があります。
価格だけで判断しない
見積金額の安さだけで管理会社を判断するのは危険です。
管理委託費が相場より大きく低い場合、その理由が人員体制の圧縮や業務品質の低下にある可能性も否定できません。
フロント担当者の担当物件数、現場スタッフの配置状況、教育・引き継ぎ体制などを含め、「なぜこの金額で成り立つのか」を具体的に確認する視点が欠かせません。
管理組合内での「合意形成」を軽視しない
管理会社の見直しでは、管理組合内での合意形成を軽視できません。
どれほど合理的な提案であっても、進め方を誤れば「一部の理事が勝手に進めた」「出来レースではないか」といった不信感を招くおそれがあります。
特に管理会社変更は、日常の管理体制に影響するため区分所有者の関心も高く、比較検討の経緯や判断基準をできるだけ共有する姿勢が重要です。
合意形成を意識せずに進めてしまうと、契約変更後の運営においても不要な摩擦を残しかねません。
管理会社の「得意・不得意」とマンション特性の適合性
管理会社には、それぞれ得意分野と不得意分野があります。
大規模マンションを数多く管理している会社もあれば、小規模・高経年マンションに強みを持つ会社、設備管理に力を入れている会社など、その特性はさまざまです。
重要なのは、「有名だから」「安いから」ではなく、自分たちのマンションの規模や築年数、居住者構成に適しているかという視点です。
管理会社の実績や体制を、自分たちのマンションの実情と照らし合わせて確認することが、見直しを成功させるポイントになります。
中立的な立場での比較・マッチングの活用
管理委託契約は専門性が高く、比較・交渉・住民説明までを理事会だけで担うのは大きな負担になります。
進め方を誤ると、価格だけに引きずられた選定や、合意形成の摩擦を招くおそれもあります。
中立的な立場で比較検討を支援する仕組みを活用し、複数の選択肢を冷静に検討できる状態を整えることが、インフレ時代の管理組合にとって重要な備えとなります。

管理費高騰時代に、管理組合が「主体的に判断する」ために
管理費の高騰は、一時的な現象ではなく、今後も続く前提で向き合う必要があります。管理組合に求められているのは、無理に抑え込むことでも、ただ耐えることでもなく、現状を正しく理解し、優先順位をつけて判断することです。
まずは、自分たちのマンションの管理委託内容が、同規模・同条件のマンションと比べてどの位置にあるのかを把握するところから始めてみてください。比較材料が揃えば、値上げの是非や委託内容の見直しについても、より建設的な議論ができるはずです。
早めに動き出し、適切なパートナーと出会える管理組合こそが、将来にわたって資産価値を守り続けることができます。
