修繕積立金はなぜ値上げされるか?5つの理由とその対策
「このままでは大規模修繕の費用が足りない」「修繕積立金を値上げしなければならない」そんな問題・悩みを抱えていないでしょうか?
マンションの資産価値、快適な住居を維持するために計画修繕、そして大規模修繕は必要であり、そのためには修繕積立金がしっかりと貯蓄されている必要があります。
しかし、なぜ計画通りに修繕積立金を集めているにもかかわらず、不足してしまうのでしょうか?値上げをしなければならないのでしょうか?
今回は
1.修繕積立金の徴収額の決定方法
2.修繕積立金が値上げされる5つ理由
3.修繕積立金の値上げ対策のためにすべきこと
をご紹介します。
修繕積立金の徴収額の決定方法
マンションの修繕積立金の徴収額は長期修繕計画から決められます。
「長期修繕計画」とは「いつ」「どのような工事を」「いくらの予算で」行うかを30年から35年の単位で計画した計画書になります。
この「長期修繕計画表」は、概ね5年毎に見直します。見直し案を管理会社から管理組合に提案し、内容が総会で可決されれば、その中に網羅されている修繕積立金の改定も合わせて行われます。
つまり、長期修繕計画に沿って修繕積立金の値上げは決められるのです。
例えば見直しした「長期修繕計画表」で2回目の大規模修繕工事(国交省のガイドラインでは、建物竣工から24年目)実施予定時点で、修繕積立金がショートする内容であれば『修繕積立金が足りない』ということになります。
あくまで計画ではありますが、この計画に沿って修繕積立金の値上げが検討・実施されていくのです。
修繕積立金が値上げされる5つ理由
長期修繕計画の見直しによって値上げされることはわかりました。では他にどのようなケースがあるのでしょうか?修繕積立金が値上げされる理由は概ね次の5つです。
1.分譲時の修繕積立金の初期設定価格が低いから値上げされる
マンション分譲時の初期設定価格が低いためです。ではどのくらい低く設定されているのでしょうか?
(修繕積立金の適正価格と分譲価格)
適正価格:200円/㎡
分譲時価格:85円/㎡
70平米の3LDKのマンションで例えると、月額14000円が必要ですが、5950円しか徴収していないことになります。
実際には購入時は基金という形で修繕金を集めていたり、機械式駐車場によって計算方法が変わるため、これほど単純ではありませんが、適正価格に対して全く足りていません。
また初期価格が低いため、将来不足分を取り戻す必要があります。そのため、値上げ率がより大きくなってしまいます。
2.修繕積立金の値上げは計画上すでに決まっている
修繕積立金の積み立て方式は、均等積立方式と段階増額積立方式の2つがあります。
均等積立方式は必要な修繕金を計画期間で割り、毎月同じ金額を払う方式です。そのため、期間中は修繕積立金が変わることはありません。国交省のガイドラインにおいても、均等方式が望ましいとされています。
しかし、多くのマンションでは後者の「段階増額積立方式」が採用されています。これは徐々に値上げをする方式です。
「分譲時の価格設定が低い」のは、修繕積立金を先延ばしにする段階方式を取っているからです。
マンション購入時、修繕積立金の値上げ計画について説明を受けているはずですが、
購入時は新たな生活が始まる事に期待が膨らみ、将来の修繕の必要性をそれほど感じていないためです。
将来に向けての大規模修繕計画とその時に必要な修繕積立金を確認すれば、将来的な値上げが必要である事が理解できます。
そうだと分かっていても「10年後のことだから」とあまり意識しないのが現実なのではないでしょうか?
3.修繕工事費の価格上昇に合わせて修繕積立金が値上げされる
高齢化社会によって労働人口が減っています。それに伴い施工を手がける職人の方の人口も減っています。人手不足によって人件費が高騰し、修繕工事費も値上がりしているのです。
この人手不足に加え、オリンピックや震災復興需要で工事そのものが増えているため、どうしても建築費は上がってしまいます。
ある施工会社の執行役員の方から「前回の大規模修繕で1億円かかったのであれば、次回は2億円かかってしまうかも知れないと」との話を聞きました。
これは極端な例かもしれません。今後建築現場における外国人雇用を拡大させるという、方針を政府は打ち立てているので、人件費は多少緩和されるかもしれません。
ただ現時点で言えることは、それほど修繕工事費の価格は上がっているということです。
4.グレードアップ工事は長期修繕計画に組み込まれていない
ある程度マンションの年数が経過すれば、当時は最新だった設備もどうしても古くなってしまいます。リニューアル工事で特に多いのは玄関とバリアフリーの工事ですが、これは長期修繕計画には組み込まれていません。
長期修繕計画に組み込まれていないということは、毎月の修繕積立金として積み立てていない、ということです。
多くの銀行ではマンションの管理組合向けにローンを貸し付けており、不足する予算を銀行ローンで補った場合、修繕積立金から返済していくことになります。そうなれば、修繕積立金の値上げはせざるをえません。
5.修繕工事費の価格が必要以上に高い
自主管理のマンションを除いて、少なくとも何かしらの業務を管理組合は管理会社に委託しています。
そして、管理会社に修繕工事を委託する管理組合もあるでしょう。国交省が発行しているマンション総合調査によると4割の管理組合は管理会社に修繕工事も依頼しています。
管理会社に任せるメリット・デメリット
管理会社に任せることはワンストップで出来る、普段も任せている、何かあったときに安心、などのメリットはあると思いますが、その分割高になります。
なぜなら中間マージンが工事をする修繕会社より管理会社に支払われるためです。
更にこの方式を取ることにより、管理組合のことをよく知る管理会社が主体となって大規模修繕工事を行うことから、完全に管理会社任せとなり、工事内容や費用の細かいチェックが入りづらい点が挙げられます。
結果的に、中間マージンという名のもとで、修繕施工内容と費用が不明瞭になることも考えられます。
それにより支払う額が増えれば、将来の資金は不足し、修繕積立金を値上げするという流れになっていきます。
参考リンク:マンションの修繕費、管理会社からの見積もりが高いと思ったら、、、
修繕積立金の値上げの対策
値上げに関しては、賛成意見、反対意見、色々なご意見をお持ちの方がいらっしゃるはずです。ただし、共通して言えることは「誰も値上げはしたくない」ということです。
修繕積立金の値上げを抑制するためには、
・マンションの収入を増やす
・マンションの支出を減らす
の2つしかありません。 マンションの収入は簡単には増やせません。そのため、マンションの支出を減らす方法を考える必要があります。
管理委託費を削減する
マンションの支出の中で大部分を占めているは管理会社への管理委託費です。
この管理委託費を削減することこそが、修繕積立金の値上げ対策につながります。 前項の「修繕積立金が値上げされる理由」で説明した低く設定されている修繕積立金とは反対に、管理費は割高に設定されています。
将来的に必要な大規模修繕に備える修繕積立金に対して、清掃費用や管理人の費用、そして管理会社への管理委託費等、新築でも購入直後から必要な管理費は、住民にとって必要であると分かりやすい費用であるといえます。したがって、このような割高な設定が取られているとも考えられます。
この割高に設定されている管理費を見直し、削減額を修繕積立金に上乗せすれば値上げを抑制することができます。 見直しで年間管理費の3割近くの管理費を削減できた組合もあります。その削減事例の一部をご紹介します。
これは決して珍しい事例ではありません。これだけ管理費は高く設定されているのです。
大規模修繕の工事費を下げる
国交省が発行しているマンション総合調査によると4割の管理組合は管理会社に工事を依頼しています。施工会社と管理会社の間には、どうしても工事を発注する管理会社(元請け)と工事を行う施工会社(下請け)という関係が存在します。
管理組合主体で修繕工事を行う施工会社を探せば、施工会社は元請けとして工事できるため、修繕工事費はぐっと安くなるでしょう。管理組合自らが自分たちで探す手間を惜しまなければ、工事費は下げられます。
工事費を削減することで値上げ対策となるのです。
参考リンク:大規模修繕・修繕工事の費用を削減するために!管理組合がすべきこと
補助金の活用も検討する
大規模修繕の工事費を下げるという観点から、補助金を有効活用することも考えられます。
使用した工事費の一部について、国や自治体が補助してくれます。
特に高経年マンションにおいては、修繕すべき事項に該当すれば、国や自治体などが耐震改修や断熱改修、バリアフリー化などの補助金を、審査を通じて認可されることもあります。
国や自治体を上げてマンションの維持保全に協力してくれるため、結果的には大規模修繕の工事費削減にもつながります。
修繕積立金の値上げ対策ですべきこと
修繕積立金を値上げする前に、まずは管理費の見直しを行ってみてください。
管理会社のいうままに管理費の見直しもせず、「修繕積立金が不足するから値上げする」ということであれば、その管理費は必ず下がります。
修繕積立金が足りないというのは、残念ながら多くのマンションに当てはまります。
1回目の大規模修繕では、修繕積立金は足りるかもしれません。しかし、2回目の大規模修繕では改修範囲が増えるため、1回目の大規模修繕以上に修繕工事費は掛かるでしょう。
自分たちのマンションを守るのは住んでいる自分たち自身です。まずは、できることから始めるのがスタートではないでしょうか?アクションを起こすことが何よりも重要です。