マンション管理会社の変更体験記〜私が管理会社を変えるまで
本日お伝えするのは10年以上前の話です。私がここに綴ります思い出は、情報として大変古いので、マンションを取り巻く状況は変わったのかもしれません。いい方向に変わったのならいいなと思います。
その年、狭い部屋ながら、私たち夫婦は初めてマンションを購入しました。25階建てタワーマンションの中程の階です。夫が新聞折り込みのちらしを広げて「これいいなぁ」と言い出したときには、上層階は全て埋まっていました。
上に行けばいくほど占有面積が広くなり、価格が上がり、購入者は当然富裕層だったため、のちのち庶民の私たちは、普段話すことのない方々とお話しするようになります。
まさかの理事の任命!?
購入年の4月、私は管理人さんから、あなたのお部屋が抽選で今年の理事になりました、と告げられました。当時、私の夫はマンション管理会社に勤めていたのですが、自分に対して
「あなたの世帯が組合理事ですよ」
と言われたとき、理事って何だっけ?と思いました。
漠然と「私には関係がない」と思っていたからです。
会社から戻った夫に理事に任命されたことを告げると
「へぇ。じゃあ出ておいて」
と言われました。
何故?の問いに対し「同業他社だから、突っ込みを入れるのがいや」との素っ気無い返事。
「どうしても?」
「どうしてもいやだし、日曜開催でしょ。俺は他のマンションの理事会に仕事で出席してるじゃないの。出られないでしょ」
・・・・そうか。夫は仕事だ。他所のマンションの理事会に出ているんだ、私の全然知らないマンションの理事会に。
「う~ん~~~~・・・じゃあ、出るね」
と言ってしまった時から、私の理事の仕事が始まりました。
第一回理事会 – 資料をもらっただけだったのに・・・
まず、共用部にある部屋(予約制で誰でも使える。バーカウンターやピアノが置いてある)へ向かいました。そこには、一度理事をしたことのある人々(6~7名)がいました。
既に理事長や書記は決まっており、私はなんとなくの流れで特段仕事のない「副理事」と決められました。
管理会社のフロントマンはおっとりした20代の男性で、ニコニコと笑むばかり。進行役も何もせず、その日はマンションの資料を配っただけでした。え、夫の仕事はこんな感じなの????頭に疑問符が湧きました。
理事となった居住者同士、お互い自己紹介をし、役職を決め、それで1度目はお開きとなりました。私はフロントマンが配った分厚い資料を部屋に持ち帰り、それをそのまま夫に渡しました。
夫はパラパラとめくって、そのままその資料を放置しました。
「何で見ないの?」。
「ん~いろいろが分かりすぎるから」。
しかし、修繕積立金の折れ線グラフは私のいない間に眺めたらしく、
「このままだと、大規模修繕出来ないじゃんね」
と言い出しました。
「なんで?」
「駐車場からの収入を見込んでいるけど、その駐車場が6割も埋まっていない」
「????何を言ってるか本当に分からない。分かるように話してよ!」
「マンションには、定期的なメンテナンスが必要なのね。で、たまに大きな工事を行うんだけど、それを大規模修繕って呼ぶの。で、このマンションが大規模修繕を行う頃、その資金が貯まってない計算だね、このグラフだと」
「????」
「車持っている人が大半だろうと思ったんじゃない?設計段階では。で、大きな機械式駐車場を作っちゃったんだね。ほらこの部分。全部が駐車場だよ」
夫は図面を指差しながら、噛み砕いて話を始めました。
「この駐車場を使うには、月々料金を払わなきゃならないのね」
「どこに?」
「管理組合。それを管理会社が管理し、貯めて、修繕に当てるの」
「うん」
「でも駐車場の借り手があまりにも足りないので、このままだと修繕出来ないな~」
後から知りましたが、そんなマンションは多いので、夫は慣れっこ。まったく驚かないのです。
ただ、機嫌は若干悪くなったようでした。
「私はどうしたらいい?」
「そうねぇ~。管理会社の人に、コレじゃ修繕出来ないじゃん?どうにかしてよって言ってみて」
「分かった・・・」。
第二回理事会 − 修繕積立金が不足してたって問題ない?
議題は他にもあったと思うのですが、記憶にありません。私は自分がどのタイミングで修繕積立金の話を始めようか、ドキドキしていました。
取り上げられていく議題は、これから私が言おうとしていることに比べたら些細なことに思われました。
一通り、議題が出尽くしたあたりで、私はとうとう切り出しました。
「このままだと大規模修繕出来ないんじゃないですか?」
その場に居合わせた皆さんの反応は薄く、私は少し気後れしました。
後から思えば、そこにいたのは富裕層。修繕の時期に「お金が足りないから出して」と言われても困らない皆様。
ですが、マンションをやっとの思いで買った私たち夫婦は、その面子の中では貧しく、急に百万二百万、一時金を出してといわれても困る生活です。
私は「逆風・・・」と思いながら、
「修繕積立金、現在貯まっていませんし、これからも貯まっていきませんよね、このままだと。どうお考えですか」
と申しました。問題を提起したところで、その回はお開きとなりました。
「皆さん、関心薄いみたいよ」自宅で私は夫にそう言いました。「どうすればいいの?」と重ねて問いました。
「駐車場を他人に貸してはどうかと提案してきて」
「はぁ?」
「駐車場がガラガラでしょ。だから資金がないんでしょ。他人に貸すのはどうですかって言ってきて。でも、事業としてそれを始めると、管理組合は居住者からも税金を徴収しなきゃならなくなって、それはそれで赤字になるかもしれないから、まぁ、黙ってこっそりやりませんかって言って。脱法ですけどって」
「むりむりむりむり」
「いいから。言うだけ言えばいい」
第三回理事会 – 悪者は私なの?
修繕積立金が貯まっていないことが、議題に挙げられました。私は夫に教えられた通りに「第三者に駐車場を貸しません?」と申しました。
「機械式駐車場の開け閉めのリモコンを知らない人に貸すのか」とか、「他人が敷地に入るのはどうか」など、幾つか意見が出されました。
管理会社のフロントマンは、やはりニコニコと立っているだけで、何の案も持ってきませんでした。
「どうして対応策、ひとつでも持って来ないんですか?」
と単純に思い、その通り聞きました。
「次回に管理会社としてなんらか(駐車場を貸し出す件について)答えを持ってきます」
とフロントマンは言いました。相変わらず、ニコニコというか、ニヤニヤしながら。
第四回理事会 – 怒れる私、ついにキレる!
フロントマンは、上司(部長職)を連れてきました。
「私の会社は法を遵守する。税金を払わずに他人へ駐車場を貸すことに同意しません」
と部長が語気を強めに語りました。
「では、この赤字はどうするおつもりで」
「それは仕方がないことです。駐車場収入を見込んでの計画ですから」
「???」
理事会の会長が「管理費は下がらないのかな」と仰いました。「もうこれで限界でして」と管理会社部長。
その日、管理会社のお二方には先にお帰り願って、私は
「管理会社を変えませんか」
と言ってみました。夫に示唆されたわけでないのですが、管理会社を変更しなければ、今の管理会社ではどうにもならないと思いました。
「変更には反対だ」と、私以外の理事全員が言いました。
「管理会社は変えないほうがいいと聞いたことがある」というのが根拠でした。
私は「では理事を本日限りで辞めます」と申しました。沈黙の後、
「じゃぁ、見積もりだけでも取ってみてください」
理事長が仕方がないという顔でそう仰ったところで、その日はお開きとなりました。
私はそれ以後、知っている会社の片っ端から見積もりを取ることになりました。
マンションの理事ってめんどくさい!この頃から私はキレ始めました。
言ってはみたものの、、、見積もり取得って大変!!
まず時間の約束をする。その時間に共用部の部屋を予約する。化粧し、そこそこの服を着て、当日は少し早めに待機。これらのことは、営業職の皆さまどなたもしていることで、大した苦労ではないのだろうと思います。
生憎私は専業主婦でした。仕事の時に着るお決まりのスーツも靴もない(共用の部屋は土足で使用)。何なら一日中化粧もしない。たかだか見積書を受け取るためだけに服を選ぶの靴を選ぶのの面倒くささといったら。
そしていらした営業の方の話をお伺いし、私は今のマンションの問題を話す。
今日始めてこれについて会話しますといった体で、計8回も同じことをする。
追加の資料が出来たとか、見積書を作り直したなどの連絡が来れば、私はまた別の服を選ばなければならない。これって何だろう。
私って理事の中で、誰より損をしているのではないかと感じ始めました。
当時は、インターネットがマンション一棟で最高100Mbpsの世界。恐らく今ならメールに添付されるのではないのかな?と想像するのですが、その当時にはマンション管理の見積もりなどをメールに添付して送信してもらうと、プロバイダのメールサーバーが詰まってしまうので、どうしても手渡し意外に方法がないのでした。
どの会社の営業の方も、1.5センチくらいの冊子を10冊ほど紙袋に入れてお持ち下さいました。
管理会社に会うのも一苦労 – あなたとは旅行に行きません!
最初にいらしたのは財閥系の管理会社さん。私が見積もりを拝見したところで、何が分かるということもないのですが、管理人の訓練用の施設があるとか、住民用のコールセンターがあって、いつでも話を聞いてくれるといった、「うちは充実しています」感がたっぷりのパンフレットを沢山携えていらっしゃいました。
現在任せている管理会社とは全く違うということが、それだけでよく分かりました。私は訪問して下さった営業の方が帰ったあと、共用の部屋を出るとそのままポストに向かいました。
そして理事長の部屋のポストに、何の言葉も添えず、たった今手渡された資料一組を突っ込みました。
「見てみなさいよ!」
という気持ちでいっぱいでした。
その日のうちに、私の携帯に電話が掛かってきました。
「私が不見識でした。申し訳ありません。管理会社を変えましょう」
理事長はそう仰いました。私の親より年上なのに、素直に謝った。ご立派なことだと思いました。
翻せば、一社からの見積もりを見ただけで、今の管理会社がダメだと分かる、そういうことでもありました
色々な会社の営業さんが代わる代わるお見えになったのですが、印象深いのはある会社の方。
「コンシェルジュなんか要らないじゃないですか」とか「警備員が必要ですか」とか「機械式駐車場やエレベーターはフルメンテナンスじゃなくスポットに変えましょうよ」等、とうとうとお話になる方でした。
何なら他社のことを「あそこの会社は悪くありませんよ。それほどは悪くない」といった具合に、明らかに上からモノを仰いました。
「このマンションの居住者は、コンシェルジュが、警備員がいることに満足している」ということが、さっぱり分からない方のようでした。
他に、ある営業さんが印象に残っています。「落ち着いたらどこか旅行に行きましょうよ」と真顔で何度も仰ったんです。
「何をしに来ているのか」と突っ込みたい気持ちでいっぱいでした。
第五回理事会 -「管理会社を変更しましょう」
理事長は、私がポストに突っ込んだ資料を持って、うきうきと登場しました。
他の方にはお配りしていなかったため、理事長がいきなり
「管理会社を変更しましょう」
と仰ったので、皆さん「きょとん」としておいででした。
私は急いで皆さんにも資料をお渡ししました。初めて見る見積もりに、皆さんから、「ふ~ん」、「へ~え」といった感嘆詞?のような声だけ上がりました。
理事長が「変更しましょう」と仰った以上、変えることは決定となりました。あとはスケジュールをどうするのか、です。
・見積もりを依頼したすべての会社の見積書がそろうこと。
・それを比較検討することができるような表を作ること。
・すべての会社さんを理事会に招いて、プレゼンしてもらうこと。
・総会に間に合わせること。
季節は初夏になっていました。総会は秋。タイトです。
私はプレゼンに来て頂く日の調整や、見積書の再作成の依頼などで、何度も何度も8社に電話を架けました。再作成の依頼というのは「このままだと他の会社に明らかに負けますが」といった内容のものです。
見積書が揃ったら揃ったで、私が比較表を作らなければならなくなりました。
清掃員は4人で毎日2時間掃除をするとした会社さんもあれば、清掃員は二人、3日に一回、5時間清掃するとした会社さんもあって、結局掃除に幾ら? これ、4時間にしてもらった場合、どこが安いの?等、私には全然分かりません。
夫が「遅いなぁ。PC前からどいて」と言い出し、初めてそこで作業を手伝ってくれました。夫によって比較表は小一時間で完成しました。
結局どの会社は何を幾らと言ってきたのか、それを見れば分かるようになっていました。
毎週の理事会に出ない、見積もりを取らない、プレゼンの日にちの調整をしない。その夫が適当なコメントをすると、どうもイライラしました。
恐らく連日どこかの会社の人がマンションまで来て下さっていたので、私は疲れていたのだと思います。
プレゼンテーション、そして管理会社の変更へ
私はやっとの思いで、8社とのプレゼンテーションを調整しました。
そして、プレゼン当日。上から目線の営業の方が、5人ほどで来て下さいました。そして、コストを下げるためにサービスを下げましょうという例のお話をなさいました。
富裕層の皆さまはその提案内容に一切コメントせず、ありがとうございましたとだけ言って、帰らせてしまいました。
最初に見積もりを取ったときには、私一人で応対したわけですが、その際へらへらと相槌を打っていたことが思い出されました。
やっぱり、どうも、理事会にいる皆さんと私は根本的に何か違うような気がしました。他の理事の方は、自分たちに合わない提案をする会社に時間を割くのがお嫌なのでした。
プレゼンは、話をしっかり聞く場合と素っ気無く帰らせる場合と、見事に分かれました。
最終的に2社が候補として残り、私はまた、プレゼン後に「これ(この見積もり)が最後でいいですか?」と幾度も電話を架ける羽目になりました。
「もう少し下がるんじゃない?」と理事の方々も仰ったからです。
最終的に一社に決まったときには、その会社の営業の方々は抱き合って号泣なさいました。
次に総会でもめないよう、事前の説明会を行おうと理事長が仰いました。
運命の総会とその後・・・
日曜日の夕方、共用部に居住者の方をお招きしたのですが、用意した沢山のパイプ椅子、ソファでは足らず、その場でしゃがむ方が大勢いらっしゃいました。
その際、現在の管理会社の部長とフロントマンも見積もりを持って現れました。
「これ以上下がらないというお話だったと思いますが、なぜ見積もりをもってきたんですか?」
と冷ややかな理事長。現在の管理会社のお二人は黙ってしまわれました。
居住者の方から「変更予定の管理会社と現在の管理会社で、もう一回見積もりを出させたらどうか?」という意見が出されました。
理事長は「そうやっていくと、もう一回、もう一回となってキリがありませんよね」という主旨のことを、大変柔らかく仰って、どなたからも意見が出なくなりました。
結果として、総会では全くトラブルになることなく、管理会社を変更することができました。
そして、どういった計算だったか、私には終始分からず仕舞いでしたが、修繕積立金の赤字はなくなりました。特段、どなたかに駐車場を貸し出すなどということをせず、サービスの質も落ちませんでした。
私には、ちょっと難しすぎましたが、この経験から、マンション一棟一棟に、恐らく最適な管理会社があるのだろうと感じました。そして、誠意のない会社なら、話すだけ無駄なのだとも思いました。
サービスの質を落とせば、マンション管理費は安くなるに決まっている。でもそれが居住者の望むことなのだろうか。修繕が行えないのは大問題だけれど、毎日快適に暮らすことも大事じゃないんだろうか。
これが私が管理会社の変更で経験した一連の面倒くさい日々の中で思ったことです。
マンション管理会社の変更体験記について
とある知り合いの方にメールのやり取りのきっかけから過去の管理会社の変更体験談を書いていただくことになりました。
”8社から見積もりを取ったのは、意地でした。代わる代わるいろいろな会社の人と会わなければならなくなり、私はちょっと後悔しました。何でこんなこと、私がやるのかとも思いました。しかし、管理会社の変更によって管理会計が改善され、管理の改善によって皆が喜んでくれるのであれば、その意義は十二分にあると思います”
管理会社の変更には苦労がつきものですが、管理会社の見直しでマンションの管理は必ず改善します。