【保存版】マンション標準管理規約改正、絶対に外せない3つのポイント

令和8年4月1日から、区分所有法などマンションに関わる法律のルールが大きく変わり、それに合わせて国土交通省の「マンション標準管理規約」も見直されました。建物が年を取るように、昔つくられた「管理規約」も、今の時代に合わせて見直す必要があります。

こうした新しいルールを前提に、あなたのマンションの管理規約は「今の時代用」に直せているでしょうか?

もし、あなたのマンションの管理会社が、これから解説する「3つのポイント」について、ほとんど改正の話をしてこないなら、注意が必要です。なぜなら、規約改正の遅れは、そのまま「資産価値の低下」や「組合運営の行き詰まり」に直結するからです。

本コラムでは、規約改正の重要ポイントを3つに絞って解説し、「付き合うべき管理会社」と「見直しを検討すべき管理会社」の見分け方も整理します。

目次
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ポイント1:「大事なことが決められない」を防ぐルールづくり

まずはじめに、今回の改正で一番影響が大きいのは、「大事なことをどうやって決めるか」という総会ルールの見直しです。特にハードルの高い「特別決議」を、どうクリアしていくかがポイントになります。

特別決議のハードルをどう越えるか

マンション管理で一番ハードルが高いのが、規約の改正や、共用部分の大きな変更を決めるときに必要な「特別決議」です。

特別決議については、改正後のルールでは、まず「組合員数」と「議決権数」のそれぞれで過半数以上が出席している総会であることが条件になります(100戸なら、51戸以上が出席している総会です)。

そのうえで、出席している区分所有者と、その議決権のそれぞれ4分の3以上の賛成があれば、特別決議が可決できます。たとえば51戸出席なら、そのうち39戸以上が賛成すれば成立するイメージです。

従来は「全体の4分の3」、つまり100戸なら75戸以上の賛成が必要だったことを考えるとハードルは下がりますが、依然として「ある程度の出席率」と「高い賛成率」が求められることに変わりはありません。

時代に合わない規約が招く「運営の行き詰まり」

古い規約のままだと、無関心層の票が集まらず、重要な議案ほど総会が流会したり否決されたりしがちです。

そこで鍵になるのが、「出席できない人の賛成・反対をどう集めるか」です。

最近の標準管理規約では、次のような点を、規約の中でハッキリ書いておくことが勧められています。

  1. スマホ・パソコンでの「事前投票」を認める スマホやパソコンから、総会議案への「賛成・反対」を送れるようにしておくと、当日出席できない人の意見も取りこぼしにくくなります。一方で、「紙の書面だけ」のままだと、特別決議に必要な賛成票が集まらず、いつまでも大事なことが決められないリスクが残ります。
  2. 連絡がつかない区分所有者への対応 長く住んでいると、「どこにいるのか分からない昔の所有者」はどうしても増えてきます。改正後は、裁判所に申し立てることで、こうした人たちを「賛成・反対を数えるときの母数」から外してもらえる仕組みができます。「連絡がつかない人が多くて、何も決められない」状態にならないよう、この制度を前提にした条文を、今のうちから規約に用意しておくことが大切です。

管理会社の「姿勢」を問う

特別決議事項の変更を含む規約改正は、管理会社にとって非常に手間の掛かる業務です。説明会の開催、反対意見への対応、全戸への周知など、膨大な労力を要します。

だからこそ、「今のままでもなんとかなりますよ」と改正を先送りする管理会社と、「将来、特別決議事項で混乱しないよう、今、規約を変えておきましょう」と提案する管理会社とでは、10年後のマンションの未来に雲泥の差が出ると言っても過言ではないかもしれません。

ポイント2:「名簿の更新」はあやふやにしない

2つ目のポイントは「組合員名簿・居住者名簿」の扱いです。

近年、「個人情報」を気にするあまり、本来は管理組合の運営に必要な情報まで集められていないケースが目立ちます。これは、いざというときに大きな支障になります。

災害時と緊急時の「命綱」

誰が住んでいるか分からないマンションで、大地震や火災、水漏れ事故が起きたら、安否確認や連絡がスムーズにできず、被害が広がってしまいます。

今回の改正標準管理規約では、特に次の点が重視されています。

  1. 届出事項の明確化と義務化 組合員(所有者)だけでなく、実際に居住している人(賃借人など)の氏名や緊急連絡先を届け出ることを、明確に「義務」として規約に盛り込む必要があります。
  2. 名簿の閲覧・利用範囲の規定「個人情報だから一切教えられない」と一律にシャットアウトするのではなく、個人情報保護法の趣旨を踏まえつつ、管理組合の正当な業務(緊急時の連絡、総会の招集、公平な負担の確認など)に必要な範囲で、適切に名簿を管理・利用できる権限を理事会に持たせる条文が必要です。
  3. 賃借人への準用 所有者だけでなく、賃借人にも管理規約の遵守を誓約させ、必要な情報を提出させる仕組み(誓約書の提出など)を規約で義務付けることが、トラブル防止の第一歩です。
  4. 最低でも年1回は名簿をチェック 標準管理規約では、理事長は少なくとも年1回、組合員名簿・居住者名簿の内容を確認することとされています。「作ったまま10年間放置」ではなく、毎年の理事会で「名簿の見直し」を一つの議題にしておくイメージです。

管理会社の「逃げ」を見抜く

管理会社(あるいは管理人)は、名簿の整備を敬遠しがちな場合は要注意です。「個人情報保護法がありますから、無理に集められません」という言葉は、しばしば怠慢の隠れ蓑に使われます。 法を守りつつ、必要な情報をどう集めるかという「具体的なやり方」を提案できるかどうかが、重要な視点と言えます。

ポイント3:資産価値を守る「攻め」の新規条文

最後の3点目は、マンションの資産価値維持に直結する、現代特有の問題に対する新規条文です。ここが最も「管理会社の提案力」が試される部分と言っても過言ではありません。

不在住戸のための「国内管理人制度」

投資用マンションや、リゾートマンション、あるいは相続で所有者が遠方に住んでいるケースが増えています。特に海外在住のオーナー(非居住組合員)が増加しているマンションでは、深刻な問題が起きています。

管理費等の督促ができない、緊急時の連絡がつかない、総会の議決権行使書が届かない、といった問題が起きやすくなります。

こうした事態を防ぐために、「日本国内に住所のある連絡先(国内管理人)」を必ず一人決めて届け出てもらうことを、規約で決めておく案が考えられます。

法律上は「置いてもよい」とされている制度ですが、国土交通省のモデル規約では、海外在住のオーナーには国内管理人の選任を義務付ける例も示されています。海外オーナーが多いマンションでは、ほぼ必須のルールと考えてよいでしょう。

管理不全(ゴミ屋敷・漏水放置)への「立入り・是正」権限

専有部分(室内)は個人の所有物ですが、そこでの管理不全がマンション全体に悪影響を及ぼすことがあります。いわゆる「ゴミ屋敷」による悪臭・害虫の発生や、室内設備の老朽化による階下への漏水などです。

従来の規約では、個人の部屋の中には「プライバシー」の問題もあり、理事会といえども容易には介入できませんでした。しかし、共同の利益が著しく害される場合には、理事長(管理者)が必要な措置をとれるよう、権限を強化する必要があります。

具体的には、以下のような条文の検討です。

  1. 緊急時に部屋に入れるようにしておく: 漏水などの緊急時には、共用部分を守るために、必要な範囲で専有部分(各部屋)の中に立ち入れることを、規約の中でハッキリ書いておく必要があります。それでも協力が得られない場合は、裁判所に申し立てて、専門の管理人を付けてもらう制度を使う、といった流れまで含めておくと安心です。
  2. それでも直らないときの「次の一手」を決めておく: ゴミ屋敷や長期間の漏水放置など、他の住戸に大きな迷惑をかけている場合には、まずは理事会から「片付けてください」「修理してください」と正式にお願いすることになります。それでも改善されない場合は、最終的には裁判所に申し立てて、部屋の管理を専門の管理人に任せるよう求める制度を使うことになります。こうした段階的な流れを、あらかじめ規約で決めておくことが大切です。

これらは非常にセンシティブな条項ですが、これからの「老いるマンション」においては、資産価値を守るための最後のよりどころになる制度として、欠かせないものです。

管理会社を見極める「リトマス試験紙」として

ここまで、規約改正における3つの重要ポイント(特別決議の柔軟化、名簿管理の徹底、資産防衛のための新規条文)を見てきました。これらは単なるルールの変更ではなく、マンションの寿命を延ばし、快適な住環境を守るための「生存戦略」です。

「前例がない」を言う会社か、「前例を作る」会社か

さて、ここであなたのマンションの管理会社を振り返ってみてください。 理事会で「規約を見直したい」と相談したとき、彼らはどのような反応をするでしょうか?

【要注意な反応】

  1. 「標準管理規約の改正はあくまで『標準』ですから、ウチのマンションは急がなくていいですよ」
  2. 「特別決議はハードルが高いので、もう少し様子を見ましょう」
  3. 「個人の権利に関わる条文(立入り権など)はトラブルになるのでお勧めしません」

こうした消極的な姿勢は、一見「慎重」にも見えますが、実際には「自分たちの仕事を増やしたくない」「リスクを負いたくない」という側面が隠れていることもあります。

規約改正は、管理会社にとっては手間の割に利益になりにくい業務です。それでも、定額の委託料の範囲内や、必要に応じたスポット報酬の提案をしながら、面倒な規約改正をリードしてくれるかどうかが、その会社の「誠実さ」と「能力」を測るリトマス試験紙になります。

柔軟かつスピーディな対応を求めて

社会の変化は待ってくれません。「うちは古いマンションだから」と諦めるのではなく、「古いからこそ、ルールを最新にして守りを固める」必要があります。

もし、現在の管理会社が、上記のような提案をほとんどしてこない、あるいは相談しても動きが鈍いようであれば、管理会社の変更を視野に入れることや、マンション管理士など外部の専門家に相談して、セカンドオピニオンをもらうというタイミングかもしれません。

規約はマンションの憲法です。その憲法改正をサポートできないパートナーに、大切な資産の未来を託せるでしょうか?

マンションの価値を守るには、設備を直すだけでは足りません。「建物」と同じくらい、「ルール」を今の時代に合わせて直していくことが、実は一番コストパフォーマンスの良い資産防衛になります。

記事監修

マンション管理士:古市 守(ふるいち まもる)

管理会社変更をはじめとするマンション管理組合のコンサルティング、管理計画認定制度支援や事前審査担当、自治体のマンション調査、マンション管理コラムの執筆・監修などで活動。

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