マンションの老朽化問題と3つ対策
日本に初めてのマンションブームが起き、マンションの基本法である「建物の区分所有等に関する法律」(1962)が制定されてから、50年以上が経過しました。
多くのマンションが老朽化対策に苦しんでいると言われます。「マンションの老朽化」と言う時、マンション全体の老朽化と自室(専有部分)の老朽化、2つの問題がありますが、ここではマンション全体の老朽化の現状と対策について考えてみます。
マンション老朽化の現状
現在のマンションストック総数600万戸弱のうち、旧耐震基準(昭和56年以前に建てられたマンション)に基づいて建設されたものが100万戸以上、その約6割が耐震性不足だと言われています
しかし、耐震性が不足しているマンションの2%程度しか建替が進んでいないというのが現状です。耐震性能を除外して考えても、適切な修繕がなされず老朽化が進行しているマンションが多数あります。
そのような老朽化したマンションの対策は大きく分けて3つの対応方法があります。
老朽化したマンションの3つの対策
1.大規模修繕による改修
建物は、躯体部分(柱や梁、壁など)のコンクリートや鉄筋に不具合がなければ、耐用年数100年も夢ではないと言う人もいます。この夢を実現するのに必要不可欠なのが、10年~10数年毎に行う大規模改修です。
鉄筋は、竣工直後はコンクリートの強アルカリ性に守られて錆びにくい状態にあります。しかし、外装の経年劣化等で雨などがコンクリート内に浸入すると、コンクリートはとたんに中性化し鉄筋が錆びやすい環境となります。
このコンクリートの中性化=鉄筋の腐食を防ぎ建物を長生きさせる為には、外壁等の塗装やタイルの維持管理・補修が不可欠なのです。また、安心・安全な生活を維持するためには、エレベーターを始めとする設備のリニュアルも必要です。
昭和56年以前の旧耐震基準で建てられたマンションで耐震性が不足しているものについては耐震補強工事も必要ですから、マンションを長生きさせる大規模改修を実施するには、多額の資金が必要となります。
この大規模改修の基盤・指針となるのが、資金計画も含めた長期修繕計画とそれに基づく修繕積立金の積み立てです。残念ながら、マンション草創期にはこれらの重要性に対する認識に乏しく、修繕が十分になされず建物が老朽しきっている、修繕したくても積立金がなく、区分所有者が高齢化して資金を調達できない、そんな気の毒なマンションが沢山あります。
尚、最近では、リノベーションやリモデリング等といって、デベロッパーなどが区分所有者から部屋を買い取って時代にマッチしたリフォームを大々的に施し賃貸することもありますが、建物本体(全体)を長生きさせることとは発想が異なることに留意すべきでしょう。
2.マンションの建て替え
大規模改修が不可能とすると、次に老朽化したマンションが取り得る手段は建て替えです。しかし、当然のことながら、建て替えには大規模改修以上の莫大な資金を必要とします。
従って、建て替えによって部屋数を増やし、増えた分を第三者へ売却することで事業費を捻出することが必要となるのです。容積率が余っていたり、容積率の緩和措置を得られればそれも可能でしょうが、条件を満たすマンションはごく少数に限られるでしょう。
建て替えには、法的にも高いハードルがあります。管理組合総会における区分所有者全体の5分の4以上の賛成を要する特別決議、退去を拒む区分所有者・賃借人(借家人)との法廷闘争など…。
このように難しい問題をクリアしなければ実現できないのが建て替えであり、それゆえに、検討を始めてから建て替えの実現まで10年~20年かかることもあるといいます。マンションの建て替えは、個人の住宅の建て替えとは比較にならないほど大変な事業なのです。
3.区分所有権の解消(敷地売却制度)
大規模改修も建て替えも実現できない場合の最終手段として、昨年12月からスタートしたのが「敷地売却制度」です。この制度を一言で言えば、マンションの耐震性が不足する場合、区分所有者の5分の4以上の賛成でマンションを事業者に丸ごと売却できるとする制度です。
マンション全体を丸ごと買った人が、それをどうするかは規定されておらず、マンションが再築されてそこに住める保証は全くありませんが、区分所有者は売却代金を新たな生活の原資に出来ます。
これまでもマンションを丸ごと売却することは区分所有者の全員一致があればできましたが、それは不可能に近いため、老朽化マンションの救済策として、区分所有法を改正して一定の条件の下で売却要件を緩和したのです。
その条件の第1は、旧耐震基準で建てられたマンションのうち、耐震診断によって実際に耐震性不足が認定されたマンションであることです。第2は、都道府県知事または市長により「買受計画」の認定を受けることです。
「買受計画」を申請するのは管理組合ではなく買受人となる事業者ですから、丸ごと買い取ってくれるところがないと、利用できない制度です。
これからのマンション、老朽化とその対策
老朽化が進行したマンション草創期~旧耐震基準(昭和56年以前)の20年間位の間に建てられた老朽化マンションの取り得る手段は以上です。しかし、これは、築浅のマンションにとっても人ごとではありません。マンションは最新のものでも日々劣化していきます。それをどのように判断し、どのように対処していくか、建物を100年もたせる覚悟で管理していくのか、それとも50年後に建て替える方針でいくのか、いずれにしても区分所有者の合議体である管理組合が最終決断しなければならない大事業です。この大事業を成し遂げるには、築浅の今から協議を始めて決して早過ぎることはないのです。
その際にポイントとなるのが、専門家による定期的な建物劣化診断、長期修繕計画・修繕積立金計画の必要に応じた改定、法改正・助成金の創設など、行政の動きの把握、そしてこれら事項について適切な助言を与える管理会社の選びではないでしょうか?