大規模修繕工事費は1戸当たり156万円へ|工事費高騰時代に管理組合が知っておきたいこと

マンションの大規模修繕工事を控える管理組合にとって、工事費の上昇は無視できない問題です。修繕積立金を計画どおりに積み立ててきたとしても、計画を作成した時点より工事費が上がっていれば、次回工事の資金計画にずれが生じる可能性があります。
一般財団法人経済調査会が2026年9月29日に公表した「マンション修繕費指数」2026年版では、マンション大規模修繕工事費の水準を示す指数が過去最高となり、1戸当たりの平均修繕費総額は156.0万円となりました。
ただし、この数字を見て「自分のマンションも1戸156万円かかる」と考える必要はありません。戸数、建物の形状、築年数、劣化状況、工事範囲、地域、発注時期によって、実際の費用は大きく異なるためです。
重要なのは、工事費が上がっているという環境を前提に、管理組合が早めに資金計画を確認し、比較できる状態を整えながら施工会社を選ぶことです。
マンション修繕費指数は166.8、1戸当たり平均156.0万円に
経済調査会の「マンション修繕費指数」は、民間のマンション大規模修繕工事費の動向を指数化したものです。2026年調査では、2013年を100とする指数が166.8となり、調査開始以来の最高値を更新しました。
| 調査年 | 修繕費指数 | 1戸当たり平均修繕費総額 |
|---|---|---|
| 2013年 | 100.0 | 93.5万円 |
| 2023年 | 138.9 | 129.9万円 |
| 2025年 | 161.1 | 150.6万円 |
| 2026年 | 166.8 | 156.0万円 |
2013年比では、指数は約1.67倍の水準です。2025年から2026年にかけての上昇率は3.6%で、直近の急騰局面と比べれば上昇ペースはやや鈍化しました。それでも、費用水準そのものは上がり続けています。
特に2023年から2025年にかけては、指数が138.9から161.1へ上昇しました。長期修繕計画を数年前の単価で作成しているマンションでは、次回の大規模修繕工事の見積額が想定を上回ることも十分に考えられます。
参考:一般財団法人経済調査会「マンション修繕費指数」2026年版を公開
「上昇が鈍化した」からといって、安心できるわけではない
今回の公表資料では、資材価格の上昇・高止まりが続くなか、管理組合が限られた修繕積立金を主要工事に優先配分し、その他工事の範囲や実施時期を調整する動きがみられるとされています。
2026年の工事費構成では、防水工事が29.4%、仮設工事が24.8%、躯体・外装工事が24.6%を占めています。足場などの仮設工事、防水、外壁や下地補修といった建物の安全性・耐久性に関わる工事は、大規模修繕の中心です。予算が厳しいからといって、安易に削減できる項目ばかりではありません。
そのため、工事費を抑えたい場合に「とにかく安い会社を探す」「必要な工事を一律に減らす」という対応を取ると、将来の補修費や再工事の必要性を高めるおそれがあります。
工事費高騰への対応は、必要な工事を見極めたうえで、優先順位、仕様、実施時期を整理し、適切な比較を行うことが基本になります。
まず確認したいのは、修繕積立金と長期修繕計画のずれ
大規模修繕工事の見積もりを取る前に、管理組合が確認しておきたいのは、現在の修繕積立金残高だけではありません。
確認したい主な項目は、次のとおりです。
- 長期修繕計画を最後に見直した時期
- 次回大規模修繕工事の予定時期
- 計画上の工事費と、現在の工事費水準との差
- 工事実施時点で見込まれる修繕積立金残高
- 次回工事以降も含めた資金収支の見通し
例えば、修繕積立金残高が現時点で十分に見えても、次回工事の費用が計画額を大きく上回れば、その後の工事に必要な資金が不足する可能性があります。逆に、工事直前になって不足が判明すると、積立金改定、一時金の徴収、借入れ、工事項目の延期といった選択を短期間で判断しなければなりません。
積立金不足への対応に絶対的な正解があるわけではありません。しかし、工事が近づいてから慌てるほど、管理組合が選べる方法は少なくなります。工事費が上がっている今こそ、長期修繕計画と資金計画の前提を早めに確認する意義があります。
修繕積立金の水準を確認する際は、平均額だけで判断せず、戸数や建物の状況、今後予定される工事も踏まえて考える必要があります。詳しくは、修繕積立金の相場と適正額の調べ方も参考にしてください。

見積もり比較では、総額だけで判断しない
大規模修繕工事では、複数社から見積もりを取ることが重要です。ただし、見積書の総額だけを並べても、適切な比較ができるとは限りません。
例えば、一方の会社では下地補修の範囲を広く見込み、もう一方では限定的に見込んでいる場合、見積金額が低い会社の提案が必ずしも有利とはいえません。防水の仕様、外壁補修の数量、足場の条件、共用部分の工事範囲などが異なれば、総額差には工事内容の差が含まれています。
比較の前提として、管理組合は次の点を確認したいところです。
- 見積もりの工事項目、仕様、数量はそろっているか
- 「一式」と記載された項目について、内容や算定根拠を確認できるか
- 劣化診断の結果と、提案されている工事内容が対応しているか
- 削減・延期できる項目と、優先して実施すべき項目が区分されているか
- 工事後の保証、アフター対応、追加工事が発生した場合の考え方が明確か
見積もり比較の目的は、最も安い金額を選ぶことではありません。管理組合が必要と考える工事内容について、価格と品質、施工体制、説明の分かりやすさを比較し、納得できる発注先を選ぶことです。
また、複数社から見積もりを取るだけでは、適正な比較ができるとは限りません。候補会社の選定や見積もり条件の設定を含め、管理組合が確認したい談合対策については、管理組合は大規模修繕の談合にどう対処すべきか?効果的な対策と課題で詳しく解説しています。

施工会社は、工事直前ではなく早めに候補を確保する
施工会社の選定も、工事費高騰時代には従来以上に重要です。施工会社には受注できる工事量や時期に限りがあり、希望する時期に対応できる会社が常に複数あるとは限りません。
工事実施時期が近づいてから急いで見積もりを依頼すると、候補となる会社が少なくなったり、十分に比較する時間を確保できなかったりする可能性があります。管理組合としては、長期修繕計画から工事の予定時期を把握し、その前から準備を始めることが大切です。
具体的には、劣化状況を確認し、必要に応じて調査・診断を行い、設計図書や過去の修繕履歴を整理します。そのうえで、工事の範囲や優先順位について理事会や修繕委員会で共通認識を持ち、複数の施工会社に声をかけられる状態を作ります。
管理組合は施工会社を探し、施工会社も受注可能な案件情報を探しています。双方が必要な情報に効率よくアクセスできることは、工事時期や比較の選択肢を確保するうえでも重要になっていくでしょう。
管理会社任せにせず、選定のプロセスを確認する
管理会社は日常管理を通じて建物の状況を把握しており、大規模修繕工事について提案を受けることもあります。管理会社の提案を受けること自体が問題なのではありません。
ただし、大規模修繕工事は多額の資金を使う重要な意思決定です。管理組合としては、施工会社の候補がどのように選ばれたのか、見積もり比較の条件はそろっているのか、工事内容や金額について十分な説明を受けているのかを確認する必要があります。
特に、管理会社から紹介された施工会社だけで比較が完結している場合には、ほかの選択肢も含めて検討できるかを理事会で話し合う余地があります。重要なのは、管理会社を一律に疑うことではなく、管理組合が選定過程を理解し、自ら判断できる状態を保つことです。
管理会社との役割分担や、管理組合運営全体の見直しについて考えたい場合は、マンション管理会社の変更で失敗しないための完全ガイドも参考にしてください。

まとめ 工事費高騰時代こそ、早めの準備と比較できる環境を
大規模修繕費が上昇しているからといって、必要な工事を一律に先送りしたり、最も安い見積もりだけで決めたりすることは適切ではありません。
管理組合に必要なのは、現在の修繕積立金と長期修繕計画のずれを早めに把握し、工事内容を整理し、複数の施工会社を比較できる環境を整えることです。
1戸当たり156.0万円という最新データは、各マンションの工事費を決める数字ではありません。しかし、工事費が上がる時代に入っていることを示す重要な目安です。次回工事の直前ではなく、余裕を持って準備を始めることが、管理組合の選択肢を広げることにつながります。
