マンションの寿命と耐用年数その先にある建替えのこと

マンションと耐用年数

管理会社のフロントマンをしていると、「マンションの寿命はどのくらいなのか」といった質問をされることがあります。

それに対する基本的な回答は「マンションによって違うので、一概には言えません。」といったものになり、多くのフロントマンはそのように回答されると思います。

フロントマンはリスクを取りたくありませんので、恐らくこれ以上の回答は望めないでしょう。

この回答に追加したとしても、「管理次第です。丁寧に使用して管理をすれば長持ちさせることができるので、そういう努力を一緒にしていきましょう。」の程度かと思われます。

確かにその通りではありますが、個人的には、この回答で満足できる方は少ないのではないかと思っておりますので、今回はマンションの耐用年数、つまり「マンションの寿命」について記述させていただきたいと思います。

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耐用年数とマンションの寿命

まず、一般的な指標から見ていきたいと思います。鉄筋コンクリート造マンションの一般的な指標は以下の通りです。

税務上耐用年数:47年
国土交通省の研究例による物理的耐用年数:113年
実際に取り壊されるまでの平均寿命:約70年

指標によってマンションの耐用年数は様々

見て頂けたらわかる通り、指標によって寿命が様々であり、税務上耐用年数と国土交通省の研究例による物理的耐用年数では2倍以上の開きがあります。

では、それぞれの定義について説明させて頂きたいと思います。

税務上のマンションの耐用年数

最初の「税務上の耐用年数」ですが、これは税金計算上の耐用年数です。法人がマンションを購入した場合、購入した期のみで支出計上していては、実態と合致せず法人としても税金支払いに困ってしまうから定めているものです。

例えば、法人Aが4700万円のマンションを購入したとします。この期に「支出4700万円」と計上した場合、法人Aの利益は大幅に縮小して税金支払い額は少なくて済みます。

しかし、次期以降は「支出0円」となり、税金を多く支払う必要が出てきます。マンションは長く使用できる物であるのにも関わらず、購入した期だけ費用計上していては、実態と合致しませんし、税金を払う法人としても困ってしまいます。

そこで、マンションは47年持つと「仮に」決めて、毎年100万円を47年間費用計上できるものとしましょうという制度があります。所謂、減価償却です。(減価償却には、定額法と定率法の違いや、不動産評価の算出根拠について説明する必要がありますが、ここではマンションの寿命とは別論点の為に割愛させて頂きます。)

こうして生まれた指標が「税務上耐用年数47年」というものです。

実態とはかけ離れているのにも関わらず、この指標が日常で一番多く使われます。

(銀行での担保価格算出等)その為、コンクリートは47年程度しか持たないと勘違いをしている方も多くいらっしゃいますが、実際はそれ以上持つケースの方が多いです。

国土交通省の研究例によるマンションの物理的耐用年数

次に「国土交通省の研究例による物理的耐用年数」について説明をさせて頂きます。もう少し細かく定義しますと、「鉄筋コンクリート造建物の減耗度調査に基づく物理的寿命の推定」であります。

すなわち、実際の建物の減耗度調査を行い、推定された寿命のことを指しております。鉄筋コンクリート造りの建物が普及してからまだ60年程度ですのであくまで推定の寿命ということになり、実際にどの程度持つかといったことは誰にもわかりません。

マンションというものは、鉄筋コンクリート部分以外に、給水排水管、鉄部、外壁、屋上防水層等色んなものが合わさって「マンション」と定義づけており、それらをある程度定期修繕しているマンションの減耗調査をしている為、定期修繕の質や頻度によって違いが生じます。

また、そもそもの鉄筋コンクリートのかぶり厚さによって劣化度合いは変わりますし、マンションの置かれている環境よって大きく異なります。例えば、海に近ければ塩害が発生しますし、地震が頻発する地域でしたら鉄筋コンクリートのひび割れは多くなります。

最初に申し上げたフロントマンがよく言う「管理次第です。」といった回答はこういったところに起因しています。

実際にマンションが取り壊されるまでの平均寿命

最後に「実際に取り壊されるまでの平均寿命」について説明させて頂きます。

私自身、実際に取り壊される現場を何度か見て関わったことがありますが、多くは「使えなくなったから取り壊す」という類のものではありませんでした。

実際に取り壊される多くのケースは、「劣化部分の修繕をするより建て替えを行ったほうが費用対効果が高い」ケースです。

劣化には種類があり、「物理的劣化」「機能的劣化」「社会的劣化」の3つに大きく分かれます。

物理的劣化とは

物理的劣化というのは、物質自体が古く変質して使えなくなる状態を指します。物理的劣化により取り壊しが行われた例としましては、劣化診断を行った結果、防水層や外壁がめくれて上塗りできる状態ではなく一度剥がしてから塗る必要がある。

原因不明の漏水が続き、給水管排水管を更新するする必要がある。

地震の発生等により、コンクリートのひび割れが多発しており、樹脂等の注入だけでは修繕不可能。といった状況です。

機能的劣化とは

機能的劣化というのは、技術の進歩により、これまでより優れた物が現れ、それと比較して価値が下がった状態を指します。

また、法的規制の変化等によって設備機器などに求められる基準を満たさないケースもこれにあてはまります。

例えば、「消防法の強化や新耐震設計法の施工などに伴う既存建築物の不適合、アスベスト混入材料の使用禁止。給水管に銅管を使用しており赤水の心配がある。」等があげられます。

耐震基準に満たないから耐震補強をしたいが、耐震補強をする費用が捻出できずに建て替えを検討するマンションというものも存在します。

社会的劣化とは

社会的劣化というのは、社会的な要求水準や要求内容が変化することによって生じる劣化を指します。

例えば、「高齢者が多く住むマンションであるのにも関わらずバリアフリーとなっていない。オートロックマンションにしたいが設計上不可能となっている。」等があげられます。

これらの劣化を修繕する費用より、建て替えを行った方が、費用対効果が高い場合に建て替え決議がなされることが多いですが、その平均がこれまでの統計では約70年となっております。(もちろん物理的劣化のみの理由により取り壊すケースも存在しますが)

この費用対効果も判断が様々であり、賃借人が多いマンションか、空室が多いマンションかによっても変わってきます。

マンションの寿命は一概に定義できない

ここまで、一般的な3つの指標を用いて、「マンションの寿命」について記述しましたが、マンションの寿命は一概には言えないということをわかっていただけたのではないでしょうか。

マンションの場合、自然災害等で倒壊するか総会決議により寿命を迎えることになります。いくら劣化が進んでも今の家に愛着を持つ人が多く住んでいれば建て替えはその人が亡くなるまで行われることがありません。

色んな指標に基づいて総会決議を取る為、寿命は一概には言えなくなります。

確かに、「国土交通省の研究例による物理的耐用年数の113年」が限界値かとも思われますが、これもあくまで推定値ですし、これからの技術革新により大幅に延びる可能性も十分にあります。

マンションの寿命と建て替え

ここからは、私個人の意見になりますが、私の意見は、「物理的耐用年数の113年を限界とした中で、お金の限界が来た時」がマンションの寿命と考えております。

今の研究値では、113年を物理的耐用年数としている訳ですから、これ以上使用することは難しいと考えられます。

そして、その中で、修繕費と建て替え費用を比較した結果、大幅に修繕費の方が高くなる時に寿命が訪れるという仮説です。

もちろん、例外もあると思いますが、建蔽率や容積率に余剰があり、費用負担なしで建て替えができるのであればそれでも良いのかもしれませんが、そういった条件のマンションはそうありません。そして建て替えには精神的抵抗が伴います。実際に居住している区分所有者がいればなおさら精神的抵抗は高く、できる限り現状維持を考えると思われます。

またマンションは賃貸に出すことが出来る為、機能的劣化や社会的劣化が多少進んだとしても、収益が得られれば建て替えず、そのまま使用され続けます。

そのため、現状でのマンションの建替は、前向きに建設的に行われるものではなく、マンションの劣化が進み、賃借人がつかなくなり、修繕費が建て替え費用より高くなる状態に陥ってはじめて、建て替え決議が行われていくのだと思います。

記事監修

マンション管理士:古市 守(ふるいち まもる)

管理会社変更をはじめとするマンション管理組合のコンサルティング、管理計画認定制度支援や事前審査担当、自治体のマンション調査、マンション管理コラムの執筆・監修などで活動。

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