機械式駐車場のメンテナンスからリニューアルまで!マンションの理事が知っておくべき全知識

機械式駐車場について

都市部などのマンションで多く見られる機械式駐車場。

限られた土地スペースを有効活用できる設備ということで注目されていますが、その特殊性から維持管理には多くの管理組合が頭を悩ませています。

マンションの理事、管理組合が機械式駐車場について知っておくべき知識についてご紹介します。

目次
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機械式駐車場の種類

機械式駐車場の種類(方式)は実に様々で、

  • 垂直循環方式
  • 多層循環方式
  • 水平循環方式
  • エレベーター方式
  • エレベータースライド方式
  • 二段方式
  • 多段方式
  • 平面往復方式

などがあり、様々な条件の土地環境でも最適な方式が採用できるよう、バリエーションが多彩です。

なかでも垂直循環方式や二段方式などは、マンションで多く採用されているタイプで、町中で目にする機会も多いかと思います。

機械式駐車場の点検業務

機械式駐車場のメンテナンスですが、実はエレベーターなどの設備とは違い、法的に定められた点検義務がありません。

全国に180万台以上設置されていると言われているマンション用の機械式駐車場。

新たに設置される機械式駐車場はピーク時に比べ2割~3割程度落ちてきているとは言え、ここまで拡大している設備に対して法的ルールがないと言うのも、マンション管理組合などのユーザーからみると少し不安ですよね。

故障や事故を防ぐとともに寿命を延ばすためメンテナンスをしたほうが良いのは分かりますが、では一体、どのような基準、考え方でメンテナンスを行えばよいのでしょうか。

機械式駐車場のメンテナンスの考え方

一般的には、建築基準法第8条の維持保全条項に基づき、定期的なメンテナンスが推奨されていますが、実際にはメーカーごとの推奨基準を採用してメンテナンスを行っている管理組合が多く、(財)駐車場整備推進機構が行った調査結果によると、毎月メンテナンスを実施している場合もあれば、3ヶ月に1回などもありますが、点検回数として最も多いのが年6回で、各月の点検サイクルが主流になっています。

出来るだけ短い間隔でメンテナンスを行うことが安心につながりますが、一方では費用のことも意識しなければなりません。

実際には、設置環境や、使用頻度を勘案して、メーカーや管理会社のアドバイスを参考に、メンテナンス回数を決定するのがよいでしょう。

メンテナンスの方式

フルメンテナンス方式とPOG(部分)方式があります。そのメリット、デメリットを次にまとめてみました。

方式フルメンテナンス方式POG(部分)方式
概要通常のメンテナンスの他、劣化部品の交換など、基本毎月の定額料金内に含みます。通常のメンテナンス部分のみで、劣化部品の交換など、基本毎月の定額料金外になります。
メリット常に劣化部品の交換が行われるため、最適な状態が維持し易い。フルメンテナンス方式と比較して費用が安くなります。
デメリットPOG(部分)方式と比較して費用が高くなります。劣化部品の交換には、タイムラグ(遅れ)が生じる場合があります。

新設された機械式駐車場では故障が少ないので、フルメンテナンス契約の必要はないと考えられます。

しかし、屋外に設置されている機械式駐車場は、エレベーターなど屋内に設置されている設備に比べ、経年劣化により故障するケースが多く、設置後ある程度の年数が経ってくるとフルメンテナンス契約を締結できないこともありますので注意が必要です。

従って、POG契約を基本に、状況に応じたオプションメニューを取り入れて、実態に即したメンテナンス方式を採用することが大切になります。

機械式駐車場のメンテナンスの費用

機械式駐車場のメンテナンス費用

次に気になるのがメンテナンスの費用です。

機械式駐車場には、「パレット」という車両を載せるテーブルがりますが、この「パレット換算」でみると、年間のメンテナンス回数にもよりますが1パレットあたり、3,000円~5,000円というレンジ相場があります。

費用を算出する計算式

ここで簡単な機械式駐車場の費用を計算する計算式を紹介します。

(基本料金+3,000円~5,000円/台+オプション)×メンテナンス回数

計算式の具体例

例えば、30台パレットの機械式駐車場を、次の条件で計算した場合、

  • 基本料金が5万円/回
  • 3千円/パレット
  • オプション 2万円/回
  • 年6回

=(5万円+9万円(3千円☓30台)+2万円)☓年6回
=96万円/年

メンテナンス費用は、設置環境、設置年数、駐車場の規模等、条件によって変動しますので、ひとつの目安としてください。

機械式駐車場のメンテナンス会社

次のようなメーカー系と独立系で多くの会社が肩を並べています。

メーカー系

  • IHI扶桑エンジニアリング
  • 東京パーキング
  • 豊国パーキングシステムズ
  • 日栄インデックス
  • ニッパツ、など

独立系

  • ㈱テクノパーク
  • 日本駐車場メンテナンス㈱
  • 大芝産業㈱、など

機械式駐車場自体は複雑な構造ではないこともあり、独立系では裾野が広く、上記以外にも多くの会社が参入してきています。

メンテナンス会社の選び方

独立系はメーカー系に比べメンテナンス費用を半額程度に削減できる事例もあり、やはり費用面では独立系に軍配が上がります。

しかし、独立系でメンテナンスをしている場合、トラブルの際スムーズにいかないケースなどもありますので、自分のマンションに設置されている機械式駐車場のメーカーと有効的なメンテナンスを行える会社を選択することが大切になってきます。

機械式駐車場の寿命

このようにメンテナンスをしっかり行っていたとしても、将来リニューアル(交換)をしなければならない「寿命」が必ず来ます。

では、その機械式駐車場の寿命はどのぐらいなのでしょうか。

その一つの物差しになるのが「法定耐用年数」です。

法定耐用年数とは、税法上定められた減価償却資産の見積もり期間を言います。

機械式駐車場の法定耐用年数は15年と定められていますが、しっかりとメンテナンスが行われていれば、延命も十分可能です。

実際町中には、15年以上現役で稼働している機械式駐車場が多くあります。

従って、メンテナンスをしっかりと行っているという前提でのリニューアルの周期としては15年~20年が標準となるでしょう。

ただし、昇降装置、排水装置、安全装置の耐用年数は、それよりも短いのが一般的ですので、それぞれの装置に応じた周期での交換を検討してみて下さい。

耐用年数を考える上での注意点

ここで一点注意が必要になります。メンテナンスで延命ができるということは、その逆も言えるということです。

通常、機械式駐車場は屋外に設置されていますが、屋外では、風雨、ほこり、紫外線などの影響を受けやすく、その分各パーツの劣化の進行も早い場合が多くなります。

しっかりとメンテナンスをしないと、逆に耐用年数に満たない時期に故障し、修繕を余儀なくされることも決して少なくありません。

そのことからも機械式駐車場のメンテナンスの重要性は、マンションに設置されている機器の中でも十分意識しなければなりません。

機械式駐車場のリニューアルについて

そんな機械式駐車場のリニューアル、寿命以上に気になるのが、その費用ではないでしょうか。

あの「ドン!」とそびえ立つ立派で大きな機械式駐車場ですが、それゆえにリニューアル費用も多額になるのが一般的です。

リニューアルの方法で大きく異なりますが、既存のピット(機械式駐車場が設置してある場所のくぼみ)をそのまま再使用した場合、パレット換算で1パレットあたり100万円~150万円程度が相場と言われています。

例えば50台収容する機械式駐車場では、50台☓150万円=7,500万円という高額になる場合もあるということです。

グレードアップや、収容台数を増やすなど、大きく仕様変更した場合などには、費用がさらに上振れすることも。

このように多額な費用が予想されるリニューアルでは、様々な部分に注意を払う必要があります。

主なポイントを次にまとめてみました。

見積もりは複数の会社から

通常は、定期的にメンテナンスを依頼している会社から提案とともに見積書をもらうことになり、その際は提案内容について説明も受けると思います。いわゆるプレゼンですね。

仮に、1社目のプレゼン内容について納得がいったとしても、必ず、違う会社に見積もりとともにプレゼンの依頼をしてください。

なぜならば、見積もりは高額になればなるほど、見積もる会社によって差が出てくるからです。

また、見積もりを依頼する際は、1社目と出来る限り見積もりの項目は同じにして、管理組合の方々が同じ目線で比較できるように工夫することをおすすめします。

異なる項目だと、その妥当性判断に困りますからね。最低でも、メーカー系、独立系、双方から見積もりとプレゼンを受けるようにしてください。

仕様は将来の駐車場需要予測をたててから

マンションを新築で購入した15年~20年前と現在を比べると、大きく変化したことがあります。

それは、車に関する考え方です。

昔はステイタスもあり、マイカーは一家一台があたりまえでしたが、最近は少々違うようです。車を所有しないという方々が増えてきているのです。

最初は、節約志向という考え方からでしたが、近年の環境意識の高まりや、レンタカー、シェアカーなどサービスの充実を背景に、車を所有しないライフスタイルが見直されてきているのです。

そうなると、余ってくるのが駐車場です。

特に、住民用に設置されていた機械式駐車場では、車を持たなくなる住民が増えてくると、駐車場が余剰になってきてしまうのです。

リニューアル時には、このような背景を念頭に将来の駐車場需要予測を立てた上で、その収容能力を見極めて、適切な大きさを選択する必要があります。

また、住民用から近隣住民への月極駐車場へ転用を図るなどの工夫も大切です。

費用負担について全住民の合意形成を慎重に

機械式駐車場は基本、車を所有しているそのマンションの住民がユーザーになります。

つまり、利用者は住民の一部になる場合が多いのです。全住戸数の収容台数を確保している機械式駐車場は多くはありませんからね。

このように一部の住民しか利用しない機械式駐車場ですが、リニューアルする時には修繕積立金が使われる場合がほとんどです。

修繕積立金は全住戸が負担しますので、全住民が負担して機械式駐車場をリニューアルすることになるのです。

そこで問題になるのが、機械式駐車場を利用しない住民の感情です。

リニューアルは、利用する住民で負担すればいいというのが心情ではないでしょうか。

しかし、機械式駐車場は一般的に「共用部分」になります。

マンションの管理規約に特別な取り決めがない限り、区分所有法では全住民で負担しなければならないとしています。

車を持たない住民にしたら「なぜ?」となるでしょうが、法的安定性等の観点から、時の立法者が定めたルールなのです。

実際にリニューアルを検討するとき、このような異論を唱える住民がいたとしたら、法的見地からの説明と、リニューアルすることによりマンション全体の資産価値が向上するなどのメリット面を丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。

リニューアルによって、マンション住民間に軋轢が生じてしまうことにもなりかねませんので、しっかりとした対応策を検討するようにしましょう。

まとめ

このように、機械式駐車場の維持管理、そしてリニューアルには、実に多くのことに注意を向けなければなりません。

これらを、専門家ではない管理組合が自ら適切に動くのは、実際難しいこともあるでしょう。

機械式駐車場のように大型のリニューアル案件などでは、必要に応じて専門家のアドバイスを受けられるような体制を整えておくことも大切です。

記事監修

マンション管理士:古市 守(ふるいち まもる)

管理会社変更をはじめとするマンション管理組合のコンサルティング、管理計画認定制度支援や事前審査担当、自治体のマンション調査、マンション管理コラムの執筆・監修などで活動。

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