マンション高齢化に伴う管理組合と管理会社の役割とは
総人口に占めるおおむね65歳以上の老年人口比を高齢化率といいますが、2014年の日本の高齢化率は25.9%。世界でも類を見ないほどの超高齢社会に既に突入しています。当然、分譲マンションの入居者についても同様のことがいえます。
国土交通省「マンション総合調査」によれば、マンションの世帯主の年齢のうち60歳代以上は、昭和55年度には10%に満たないほどでしたが、平成25年度においては50.1%にまで達しています。2人に1人が高齢者という事になります。
この入居者の高齢化に伴い、管理組合・管理会社はどのような役割を果たすべきなのか、大変難しい問題ですが、そのポイントを考えてみます。
高齢化で考えておくべきマンションの問題点
マンション入居者の高齢化が進み、各戸の入居者構成が、高齢の夫婦のみや一人暮らしの場合に、まず考えておくべき問題は、第1に日常の安否確認や災害時の救助体制といった「命」に関わること、第2に年金生活となり経済的に余裕がなくなるといった「お金」に関わることでしょう。
一見、個人やその親族の責任において解決されるべき問題のようですが、高齢者世帯で事故が起きたらどうするか、多くの管理費滞納が生じたらどうするかなど、マンションの安全・安定的な運営のために、もはや管理組合・管理会社が「責任の範囲外」と言っていられない問題なのです。
まず初めに取り組むべき問題
バリアフリー化
平成6年にいわゆる「ハートビル法」が施行されるまでに建てられたマンションの中には、共用部分のバリアフリー対策が未実施のマンションがあります。
費用がかかり、また、構造上難しいマンションもありますが、高齢者の安全な生活のためには、段差の解消(スロープの設置など)、床にノンスリップ材を設置したり薬剤加工などして防滑化する、手摺りを設置することなどが必要不可欠なのです。
入居者台帳等の整備
世帯がどのような年齢構成になっているか、管理組合・管理会社はもちろん、近隣も、案外知らないものです。高齢者対策というときには、まず、どの部屋に、どのような高齢者がいるのか知ることが必要です。
ここでいう台帳は、年齢・性別・人数といった簡易な項目を記載したものではなく、血液型、既往症、常用薬・禁忌薬の有無、主治医の存否、親族等緊急連絡先の住所・電話番号、要介護状況なのか否かといった、高齢者が不測の事態に陥ったとき、少しでも速く適切な処置ができるようにするための情報が記載されたものです。
台帳の書式・保管方法・閲覧できる場合などを管理規約で定めることが必要ですが、当然、個人情報・プライバシーの保護の観点から、反論が出るでしょう。高齢者がマンションで安心して生活していくため不可欠なものであることを丁寧に説明して実現することが必要と思いますが、どうしても難しいならば、これら情報を記載した書面を専有室内の一定の場所に常置しておくルールにしたら良いかもしれません。
「命」を守るために取り組むべき問題
同じマンションに住む者同士が、いざというときに助け合って「命」を守る活動をするためには、平素からのマンション内のコミュニケーションが大事であることはいうまでもありません。ただ、昔のように「向こう三軒両隣」とはなかなかいかないのが、実情でしょう。まずは「仕組み」を作り、その実践などから自然と出来上がるコミュニティもあるのではないかという気がします。
緊急時の避難・救護
入居者台帳の整備によって緊急時(入居者の病気、事故、災害)などに援護を要する世帯を常に把握しておくことを前提に、要援護者の安否確認や救護の手順、避難誘導の仕組み・ルール(マニュアル)などを予め定めておくことが必要であると思います。
緊急事態は在館者が大勢いる時間帯にやってくるとは限りません。また、災害時には全ての入居者が被災者です。無理なく助け合える仕組み、そのマンションに合った仕組みを構築、また、必要に応じて修正する、そして、緊急事態をシミュレーションして、入居者全員参加の訓練を重ねることが重要と思います。訓練を重ねることは、近隣のことを知るよい機会にもなります。
独居者等に対する日常の援護
一定の条件、例えば入居者台帳に基づき「○○歳以上の者のみで構成される世帯」を満たす世帯には、管理組合による定期訪問(声掛け)をルール化・業務化する。実際には、管理組合から委託を受けた管理会社の業務とし、管理会社は介護サービス会社・民生委員・医療福祉機関などと連携してこれを行う、そのような仕組みをつくることが考えられます。
尚、この仕組みをつくる際には、可能なら、救護業務担当者の駐車への配慮が望ましいと思います(ケアサービス全般に言えることです)。
また大手警備会社の高齢者見守りシステムを、管理組合負担で限定的に導入する、例えば「○○歳以上の者のみで構成される世帯」となった場合に導入することが考えられます。
「お金」に関わる問題
高齢になると、一部の富裕層を除いては経済的に余裕がなくなるのが当然です。それによって、管理費が滞り修繕費が捻出できずといった事態が想定されます。個人差があり個人責任の難しい問題ですが、管理組合・管理会社が各戸のファイナンシャルプランに対するアドバイスや支援をすることにより、マンション運営の安定を図ることは可能だと思います。
リバースモーゲージの研究
「リバースモーゲージ」とは、自宅を担保にして老後資金を借りる金融商品です。最大の特徴は、生きている間に返済義務がなく自分の死後に担保不動産を売却しその代金で一括返済する点。子どもがいない老夫婦など死後に家がいらなくなる世帯が、老後のために現金を借りるための商品で、大手銀行など取り扱い金融機関が増えています。金融商品ですからリスクもあり、管理組合で勉強会を開催するなど、その利用について研究することが必要でしょう。
賃貸・売却・移転先の斡旋支援
管理会社の多くは、自社で、あるいは系列会社で不動産仲介業を営んでいることが多いと思います。残念ながらマンションに住み続けるのが困難になった入居者に、物件を賃貸に出す、売却をする、そして移転先を見つける支援をする。これは、管理会社の責務とはいわないまでも、マンション運営の安定を図るために重要なこと。どうしてよいかわからず、いたずらに困窮の度を深めている高齢の入居者もおられるのではないかと思います。
高齢化と管理会社の役割
入居者が高齢化すると、役員のなり手がなかなかいなくなる等、管理組合活動が難しくなっていきます。管理会社の重要性・適正性が一層問われる時代です。
高齢化に対する対応策、例えば、定期訪問制度やセキュリティーの導入など新しい仕組み造りには費用が発生しますが、この費用をどれだけ抑えることができるか、管理会社の知恵と力量が問われることになるでしょう。
高齢者世帯への管理業務外のビジネス、例えば、給食サービス・クリーニングサービス等の可能性を見越して、リーズナブルに新規サービスを提供する管理会社もあるでしょう。行政の最新の高齢者施策についても敏感であることが求められます。
既存の管理会社にこだわらず、知恵と工夫に基づく質の高いサービスを提供する管理会社を選択する、そのためには、管理会社間の競争原理も利用する。高齢化が進むこれからのマンションに不可欠なことかも知れません。