質の高いマンション管理を実現するために理事会がすべきこと・できること

マンションを買って住むこととは、一軒家を買って住むことと大きな違いがあります。
それは、マンションの一室を購入することは、一つの大きなマンションの建物の一部だけを所有(区分所有)することであって、一軒家と違って建物全てを完全に自分のものにすることではないことです。
また、マンションには、どの区分所有者にも属さない共用部分が存在し、その管理については、マンション管理組合の決議で決められる特徴もあります。
そのマンション管理組合を代表し、マンション管理組合の総会を努め、業務を統括するのが理事会です。
では、理事会はどのようにマンション管理に関わることができるのでしょうか?また、質の高い管理を実現するには何をしたらよいのでしょうか。
マンション管理組合の理事長経験から、今回それをお伝えしたいと思います。
マンション管理組合が行うマンション管理とは
マンション管理組合が行う業務については、法律である民法や区分所有法や、マンションの自主ルールである管理規約に定められています。
この管理規約には国土交通省(旧建設省)が作成・改正しているモデルがあり、それが直近においては、平成28年に見直されたマンション標準管理規約です。そして、多くのマンションでは、この標準規約をそのまま、または一部を改正して、各々のマンションの管理組合の管理規約として採用しています。
このマンション標準管理規約では、管理組合の業務は、共用部分の保安、保管、保全や清掃、ゴミ処理、修繕と、共用部の変更に長期修繕計画の作成、変更、そして、管理費や修繕積立金等の徴収があると規定されています。
マンションの決議
マンション管理組合の決議は多数決でされます。
普通決議では、原則として、総会に出席した組合員の議決権の過半数の賛成があれば、反対する組合員がいても可決されます。
その多数決の原則は一貫し、たとえ、マンションの建替えという全ての組合員にとって極めて重要な議題であっても、組合員総数及び議決権の5分の4の賛成があれば、少数の反対者がいくら強硬に賛成しなくても可決できます。
そこで、総会の議長の責務を負う理事長には総会で多数決がなされるように、議題、議題を作成することが求められるのです。
※マンションの管理の多数決の原則には、少数の反対者を救済する定めもあります。マンションの建替え決議に賛成しなかった5分の1以下の議決権を有する組合員には、決議賛成者に対して、自己の持ち分を買い取ってもらい、マンション管理組合から離脱することができます。
質の高いマンション管理とは
多数決のされやすいマンション管理総会運営がされていれさえすれば、質の高いマンション管理がされていると言えるわけではありません。
平成の初めや、昭和の時代に造られたマンションの中には、竣工当時にマンション標準管理規約も整備が進んでおらず、長年、管理会社にマンション組合の運営を全面的に任せっぱなしで、住民のリストも整備されずにスラム化しているマンションも存在します。
しかし、このようなマンションでも、マンション管理組合の出席率が低いまま、委任状だけで、多数決決議がされているのが実情です。
マンションは管理を買えと言われる理由
「マンションは管理を買え」と、マンション購入希望者にアドバイスがされることがあります。
この管理とは、マンションを見学した時に、マンションに着いてから購入希望の部屋に入るまでの目で確認できるほとんど全てに関係します。それは例えば、
- マンションに入る前のマンションの外観に目立つ傷や汚れがないか
- エントランスはきちんと清掃されているか
- ゴミ捨て場が乱雑になっていないか
- エレベータの壁に落書きや目立つ傷がないか
等です。これらは、管理組合が徴収している管理費や修繕積立金を使えば適正に行える管理でもあります。
ここで、もし購入希望者がネガティブな印象をもってしまうと、購買意欲が向けられたマンションの部屋が色あせてしまいかねません。
いくら部屋がリノベーションされて新築同様に魅力的であったとしても、不潔なエントランスがそのままに放置され、ゴミの出し方にマナーが感じられない住民と同じ建物で暮らすことに疑問や疑念を抱かれたら、その部屋は売りにくく、売れたとしても、値下げされるでしょう。
つまり、資産価値が下がってしまいかねないのです。
逆に、管理が行き届いているマンションでは、築年数が20年、30年となって古くなっても、近隣の新築マンション同様、時には、それ以上に割高になる場合もあります。
新築の場合には、誰が住むかわからないのに対して、すでに住んでいる住民の高いモラルが感じられれば、隣人付き合いのトラブルも無縁で起こりにくく、住みやすいマンションと思われるからです。
そこで、住民の意識が高く、住民一人ひとりが責任をもって、管理費や修繕積立金を管理組合に納付して、日常の清掃などの管理に支障をきたさないようにし、また、むやみにゴミを出したり、汚れたエントランスを見過ごせないような意識があれば、マンション管理が良質であると言えるのです。
質の高いマンション管理のために理事会ができること、すべきこと
質の高いマンション管理のために、理事会ができるのは、まず、管理費や修繕積立金の未収がないようにすることが重要です。
そのためには、銀行口座を管理している管理会社から、納付状況を把握し、納付遅延があれば、対象者に督促してもらうように指示すべきです。
次に、集めた管理費や修繕積立金が、マンションを住みやすくし、資産価値を維持・高めるために適正に使われるように住民全員が監視できるようにすることや、ひとりひとりの住民が周囲に迷惑を掛けないように、快適に日常生活を送れるように心がけるようにすることも求められています。
理想的には、全ての住民がマンション管理組合の総会に出席し、総会よりも頻繁に行われる理事会に、理事でなくでも臨席して意見を表明し、主体的にマンション管理に関われるようになることが望ましいでしょう。
しかし、仕事や育児に介護など、多忙な現代人には時間的に余裕がなく、現実にはなかなか難しいことです。
管理に興味を持ってもらうための工夫
そこで、理事会には、総会や理事会に出席できない組合員にも、組合の活動に興味をもってもらい、住民のそれぞれが管理をしている当事者意識を高める工夫が求められます。
組合員の中には、初めて住宅を購入して、そもそも、管理組合とは何をするのか、知らない人もいる可能性もあります。そのような場合には、まずマンション標準管理規約についての啓蒙活動が必要になります。
その上で、理事会で決めたこと、これから審議を予定することや、理事長の考えていることを共有し、一方で、住民からの要望を理事会、理事長が吸い上げるような双方からのコミュニケーションを図ることが効果的です。
また、日常の清掃などに対する率直な意見には、管理会社には言いづらいこともあるので、理事長または理事会が、住民の苦情や要望を率先してとりまとめる仕組みをつくるべきです。
コミュニケーションの方法としては、費用のかからない、受け手の負担にならないメールやラインなどもあります。
しかし、住民全員にほぼ同時に知らせたり、問い合わせをする機能では、原始的な手段である掲示板に理事長または理事会からのお知らせを掲示することや、書面での全戸を対象にしたアンケートを郵便受けに投函することも、住民負担のネット環境の整備状況を問わないので、負けず劣らず有効です。
まとめ
マンション管理とは、各組合員が個々の部屋は独立した住居に住みながらも、一つのマンションという共同体、ひとつのコミュニティを形成しているように住民意識を高めることであります。
そのために、理事長は、組合と住民とのコミュニケーションが取れる仕組みを工夫し、住民の意見を取りまとめ、集約し、住民の総意がきちんとマンション管理に反映されるように図り、その管理を委ねる管理会社を管理・監督することが求められているのです。