マンション設備の改修とリニューアル!判断基準と考え方
マンションには、その特性から、戸建て住宅には見られない様々な設備があります。そして、この設備は必ず劣化していきます。マンションの設備は改修すべきか、リニューアルすべきかについて、考えてみましょう。
マンションの一般的な設備
マンション規模によって設備に違いが有りますが、まずは代表的な設備を見てみましょう。
電気設備
高圧で受電した電気を、各戸で使用できる電圧(100V、200V)に降圧する受変電設備(キューピクルと称する場合もあります)。
また、ポンプや空調機などに電気を供給する3相200Vの動力電源設備、そして、各戸に電気を供給する単相200V、100Vの電灯設備等に分かれます。
給排水設備
戸建て住宅では、市や町などの敷設した水道管から直接供給されますが、マンションなどでは、一度に使用する供給量や衛生面の観点から水槽に一旦貯留します。
一番多いスタイルが、地上や地下に設置してある受水槽で貯留し、それを揚水ポンプで屋上など高層階に設置してある高置水槽に汲み上げ、重力を利用して各戸に供給するという仕組みです。
また排水では、台所、トイレなどから排水される汚水等を、地下などに設置してある汚水槽に貯留し、一定量が溜まったら行政の敷設した下水道に排水するという仕組みです。
消防設備
これは、マンションならではの設備になります。マンションなどの一定規模(階層、面積、収容人数)の建物では、消防法によって備えるべき消防設備が定められており、代表的なところで、次のような消防設備があります。
- 消火設備:スプリンクラー設備、屋内消火栓設備、消化器
- 警報設備:自動火災報知設備、非常警報(ベル)設備
- 避難設備:避難ハッチ、誘導灯
- 消防用水:消防水槽
- 消防活動上必要な設備:連結送水管、非常コンセント設備、等
火災が起きた時に、火災を察知する設備、それを知らせる設備、初期消火の設備、そして消防隊が使用する設備と、火災を防ぐために多くの消防設備が設置されています。
マンションの設備は必ず劣化する
このように、マンションには様々な設備がありますが、どれだけしっかりとしたメンテナンスをしても、必ず劣化していきます。
新規に設置した時の能力を100として、数年後にはかならず0になります。しかし、0になるまでは大丈夫という訳ではありません。
それぞれの設備には、最低限求められる機能があります。
その能力が仮に20程度だったとしても、安定的に稼働することに問題があるようであれば、何らかの手を打たなければなりません。
そこで問題となるのが、「リニューアルにするか」「改修にするか」ということです。
リニューアルと改修の違い
まずはそれぞれの意味を理解しておきましょう。簡単に言うと、リニューアルは設備をまるごと新しくしてしまいます。一方、改修は劣化した部分(部品等)を交換します。
予算面の違い
それぞれに、メリット、デメリットがありますが、大きなポイントとしては、まずは予算です。
リニューアルの方が、一般的に費用が大きくなります。逆に、改修はリニューアルに比較すると低くなる傾向になります。
工事面の違い
リニューアルでは問題になりませんが、改修では、部品がない場合や、設備が劣化しすぎて改修(分解しても組み立てができない)ができないなんてこともあります。またリニューアルのほうが工期は長くなります。
アフターの違い
対応後の信頼度にも大きな差がでてきます。
リニューアルは新しい設備に代わりますので問題はありませんが、改修は交換していない部品の劣化具合によっては、近い将来ほかの不具合が発生する可能性もあります。
結果、「最初からリニューアルするよりも費用がかかってしまった」なんて事例もあるので注意が必要です。
このように、一概にリニューアルにするべきか、改修にするべきかの判断はできませんが、いくつかの視点から総合的に判断することになります。
設備の保全について
次に、リニューアルや改修のタイミングですが、それには「事後保全」か「予防保全」か、という考え方があります。
事後保全とは
事後保全は、故障してから初めて改修をします。設備の寿命いっぱい使いますので、「経済的だ」なんて見方もできます。
しかし、タイミングによっては、部品が手に入らない、新しい機器が手に入らない、工事をしてくれる職人さんがいないなど、様々な問題が発生します。
何よりも、断水したり、電気が止まったりと、日常生活に多大な影響を及ぼしますので、基本は予防保全の考え方になります。
予防保全とは
予防保全とは設備が壊れてしまう前に改修することです。
しかし、悩むのが予防保全のタイミングです。いくら予防と言っても、あまり早いタイミングでは、経済的なデメリットもあります。
リニューアル・改修の判断基準
設備を改修するか、リニューアルするかの一つの基準になるのが、耐用年数という考え方です。
耐用年数による判断
電気設備では15年、給排水設備なら15年と目安となる耐用年数が定められています。
しかし、この耐用年数とは、設備の実際使用できる年数ではなく、税務上の観点から決めた減価償却資産の利用に耐えうる理論上の年数で、耐用年数を過ぎたからと言って設備が使えなくなるわけではありません。
使えるのに改修なんてやはり「もったいない」ですからね。
定期メンテナンスによる診断
そこで現実的な判断基準としてオススメなのが、専門家による定期的なメンテナンスを行い、ちょっとした設備の変化をデータで感知して、「そろそろ」という時期を見計らってリニューアルなり改修を検討するという方法です。
例えば、電気設備であれば、客観的なデータである、電流値(劣化してくると電気が通常よりも多く流れる過電流という現象が表れます。)や絶縁抵抗値(劣化してくると絶縁抵抗値が低下し、漏電という現象が表れます。)を測定して、劣化度を検知していきます。
いずれも一定値を超えると、保護装置(ブレーカー等)が働き、設備が使えなくなってしまいます。
それ以外には、アナログ的ですが、メンテナンス技術者の手と目と耳で、異音、振動、変色、温度変化等を察知するという手法も非常に効果的です。
このような、いわば内科的な診断(メンテナンス)によって、設備の状態をこまめに診ていくという方法で、そのタイミングを見計らいます。
設備のリニューアル・改修で注意すること
リニューアルや改修の検討を進めていく中で、管理組合として注意すべきこととしては、次のような点が考えられます。
必ず相見積もりをとって、金額を比較する。
日常のメンテナンスを依頼しているマンション管理会社から見積もりをとることが通常であると思われますが、総額だけではなく、項目ごとに金額を比較するべきです。
そのためには、見積書の各項目を同じ仕様にしなければなりません。
その分野に明るくない管理組合の方々が比較するのであればなおさらです。
管理組合だけでは不安という場合は、その道のプロであるマンション管理士などにコンサルティングを依頼してもいいでしょう。公正な視点で、見積もりの妥当性チェックが可能になります。
周辺住民への配慮
リニューアルや改修は、通常大規模になる場合があります。
大規模になると、施工期間も長期間になり、その間、騒音、粉塵、工事関係者の往来、周辺道路の工事車両の交通量増加等、マンション住民だけではなく、周辺住民の生活環境への影響もあります。
そこで、施工前の周辺住民への説明会開催やビラ配りと挨拶など、十分な配慮が必要です。
この点を疎かにしていると、紛争が起きる場合もありますので、慎重に対応しなければなりません。
マンション住民の合意
「マンション管理組合」という合議体ですから、そのリニューアルや改修については、ルールに則って決議が行われますが、中には反対住民がいることも多くあります。
それが原因で、住民間の人間関係がギクシャクしたりすることもありますので、管理組合としては、反対住民への丁寧な説明と理解を求めるという姿勢が求められます。
まとめ
このように、マンション設備のリニューアルや改修は、実に様々な視点で検討を進めていかなければなりません。
基本は、管理組合を中心に進めていくことになりますが、場合によって専門家のアドバイスを受けながら検討をすることも大切になります。